隙間
うとうととする中、駿さんの香りが恋しくてなんとなくフラフラ歩いていた。
これも、これもいい香り。
気づいたら、ベッドと窓の隙間で駿さんの服とか持ち物に囲まれていた。

「…、ん、まだ匂い、足りない…」

足りない気がする。
バニラの甘い香りがもっと欲しくて、グレーの枕を引き摺り下ろした。
窓に当たる雨の音が聞こえて来て、眠気は増してくる。

「うー…」

携帯電話が鳴っている。電話見れば、駿さんの名前が書いてあった。

「もしもし…?」

『千陽、どうした?』

「へ…? 電話してた…?」

電話先の声はどこか不安そうで、自分から電話をかけていたことに気づいた。
この眠さは、ヒート前だからかもしれない。
駿さんに会いたい。
電話の声を聞くと恋しさが増した。

『ああ、何かあったのか?』

「んーん、何にもないよ…。間違ってかけてたみたい」

『仕事も終わったから、今から帰るよ』

「んー…気をつけて、でも早く帰って来てね」

『ああ。何か欲しいものは』

「何にもないから、早く会いたい」

『わかった、わかった』

電話先の笑い声に小さく返事をすれば、またなと聞こえて電話が切れた。
枕をぎゅっと抱きしめて、駿さんの香りに包まれる。
早く帰って来て、心の中でもう一度呟いてから目を瞑った。

いつの間にか眠っていたようで、目をさますと駿さんの腕の中にいた。
バニラの甘い香りに包まれていて、ほっとする。
理系なのに、意外と体格のいい駿さんの胸にすり寄った。
駿さんの体温が気持ちいい。

「駿さん…」

駿さんはコートとジャケットを脱いだまま、隣で眠っていた。
仕事で疲れているのか、眉間にシワが寄っている。
きっと帰って来てからまっすぐに来てくれたのだろう。
すぐそばにコートもジャケットも落ちていた。
それをうんと手を伸ばしてとって、香りを嗅いだ。

「ん…、千陽、起きたのか」

「うん…おかえり」

「ただいま」

「ん、んー…、もっと」

唇を食まれる気持ちよせに、また意識がトロトロととろけ始めた。
駿さんの腕が背中を撫でて、うなじを指先でくすぐられる。
くすぐったくて小さく笑えば、下唇を甘噛みされた

「早く帰って来てくれてありがと…」

「番休暇取るのが遅くなって悪いな」

「んーん…。今日からずっと一緒にいれる?」

「あぁ」

「嬉しい…」

「でも眠いみたいだな」

「ん…。このままヒートが来そうなの…」

「巣作りしてたもんな」

チュッと甘い音を立てて、額に口付けをくれた。
駿さん、と名前を呼べば顔中にキスをくれる。
甘えるように背中をくすぐってみれば、駿さんが笑った。

「千陽」

「んん?」

「キスして」

「んー」

小さく返事をしてから、頬に口付けて、今度は唇に口付けた。
嬉しそうな様子に駿さんに抱きしめられる。

「駿さん、仕事疲れた…?」

「今日は少しな」

「そっか、お疲れ様…」

互いの頬に触れ合いながら、ゆるゆると中身のない話をする。
作り上げた巣の中で、バニラの香りに包まれていた。
駿さんも多分うとうとしている。
この穏やかな時間が気持ちよくて仕方がない。

「千陽…」

「なあに」

「呼んだだけ」

「変な駿さん」

小さく笑いながら、駿さんの顎に口付けた。

キッチン end
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