嬉しい
「千陽、そろそろヒートが来る頃じゃないか」

「んー」

「最近お前、よく眠っているだろう」

「そう…?」

「ほら、今も眠たそうだ」

「そんなことないー」

うんと腕を伸ばして駿さんの太ももをつねる。
今はソファーで二人でグダグダしていた。
駿さんは今日は仕事は休み。
穏やかな休日だ。
雪はあっという間になくなって、綺麗な花が芽吹き始めている。

「元々明日が診察の日だけど、今日行くか」

「えー、ゆっくりしてたい」

「明日ヒートが来たら病院行けないだろう」

「そうだけど、今は駿さんとイチャイチャしてたい」

「ほら、とっとと着替えろ」

駿さんの大きな手のひらがくしゃくしゃとグリーンアッシュの髪を撫でた。
優しく笑っている駿さんの顔が大好きで、その顔をされては断れない。
ため息をつきながら立ち上がれば、腕を引かれて頬に口付けされた。

「んーっ、こっちじゃないでしょ」

そう言いながらも、頬が染まって行くのを感じて、視線をそらす。
意地悪な旦那様は笑いながら、俺を置いて着替えにクローゼットへ向かっていた。

病院にたどり着けば、今日は人が全くいなかった。
平日の午後だからかもしれない。
金内先生の診察室に通されて、椅子に腰をおろす。
今日は人が全くいないから、駿さんもそのまま通してもらえていた。

「そろそろヒートかな」

「んー、そうみたい、駿さんが」

「この調子で」

「だいぶポヤポヤしているね」

駿さんの言葉で金内先生が笑いながら、頭を撫でて来た。
その手つきが優しくて気持ちいい。
あったかい、まるで子どものときに読んだ絵本の中の、お父さんみたいだと思う。

「千陽君、ヒートの前の具合の悪さはない?」

「そういえば、最近ないかも。いつも駿さんと一緒にいるからかな」

「番がヒート前に一緒に過ごすのは、お互いの身体にも心にもいい作用があるからね。精神的な面はいい調子だね」

「よかった」

隣に座っている駿さんを見れば、どこか嬉しそうに見えた。
トンっと膝を当てれば、背中を叩かれる。
それに小さく笑っていると、金内先生がコホンと咳払いする音が聞こえた。

「ごめんなさい」

「仲がいいことは、素晴らしいことだから気にしないで」

金内先生の言葉に頬が赤くなるのを感じて、駿さんを思わず睨む。
駿さんはそんな俺なんか露知らず。
次は内診だよ、と言われて、駿さんはここで待っててね、と声をかけた。
内診室に入ってから、診察台に寝転がる。
まずはエコー検査を行ってから、内診に入った。

「うん、驚くくらいだよ」

「…うう、」

「千陽君、大丈夫?」

「大丈夫…。せんせ、どう?」

そこに駿さんのものを受け入れるのと、内診ではやっぱり感覚は違う。
違和感が強くて、金内先生の話もあまり頭に入ってこなかった。

「うーん、部屋戻って駿君と一緒に話を聞いてもらおうかな」

「そうする…」

内診を終えて、衣服を整えて診察室に戻る。
駿さんはスケジュール帳を眺めていたけれど、戻って来ればすぐに手を引いて来れた。
その手が温かくてほっとする。
隣に腰を下ろして笑いかければ、駿さんも優しく微笑んでくれた。
どうだった。
そう聞いた駿さんの声はどことなく不安そうだった。
そのことを金内先生も感じ取ったのか、金内先生は頷いてからニッコリと笑ってくれる。

「内診の結果だけど、子宮も妊娠しても問題ないくらいまで成長していた。よかったね」

「…っ」

どこか、他人事のように感じても、ずっとその言葉を待ってた。
駿さんとの子どもを諦めなくていい。
嬉しくて、思わず隣の駿さんを見てしまう。

「…よかった」

小さなささやき声が聞こえて来て、胸が締め付けられた。
駿さんにぎゅっと手を握られて、頬が緩む。

「よかったね、今日の診察はこれでおしまいだよ。次の診察は、妊娠の可能性がある時や、調子が悪い時に来てね。うちに遊びに来るのはいつでも構わないからね」

「うん。金内先生、ありがと」

お礼を伝えてから、駿さんと一緒に診察室を出る。
繋いだ手はそのまま離さず、お互い嬉しさで何も言葉が出ない。
会計を済ませてから、車に乗ってからようやく実感が湧いて来た。

「駿さん、赤ちゃん作っていいって」

小さな声で呟けば、駿さんが小さな声で返事をくれた。
駿さんはまだ実感が湧いてないみたいで、それが少し可愛くて頬に口付ける。

「駿さん、ここに赤ちゃん、作っていいんだよ」

大きな手を下腹部に導いて、触れてもらう。
温かな手が心地よくて、嬉しくて、その手の上に自分の手を重ねて握った。

「千陽」

駿さんの腕が伸びて、ぎゅっと抱きしめられる。
少し驚いたけれど、嬉しくて同じように背中に腕を回した。

「駿さん、大好きだよ」

小さく伝えれば、駿さんも同じだけ返してくれた。
嬉しくてたまらない。
大きな手のひらが優しく頭を撫でてくれて、胸が締め付けられる。

「おうち帰ろっか」

「ああ、帰ろうな」

こくりと頷いてから、小さく笑った。
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