練習
金内先生の車でデパートまでやって来た。
凛花さんと涼太は初対面だったけれど、出会ってすぐに打ち解けることができたから良かったと思う。
涼太が人見知りだったらどうしようかと思っていたが、杞憂だったようだ。
そもそも、病院の待合室でいきなり話しかけてくるやつが人見知りなわけがなかった。

「だいぶ寒いけれど、3人とも風邪をひかないようにね」

「はーい」

3人分の呑気な返事を聞いた金内先生はひらひらと手を振って高級車を走らせていった。
雨が降りそうな薄暗い空の下、デパートの中に入る。

「どんなチョコレート作りたいのかな?」

「んー…、駿さん割りとなんでも食べれるからなあ…。何がいいかな…。あ、何がいいと思いますか」

「千陽君の話やすい話し方でいいからね」

「あ、ありがとう…。敬語苦手だから」

「ふふ、千陽君、かわいいなあ」

ニコニコしてる凛花さんにホッとする。
笑うと金内先生に似ていて一緒に過ごしていると似てくるのかなって思うとドキドキした。

「そうだよね、確かに。なんでも食べていたような気がする…。涼太くんはどうかな」

「嶺緒君、甘いの苦手だから、できれば甘くないやつがいいな」

「なるほど」

凛花さんが顎に手を当てて、うーんと考える。
駿さんはなんでも食べれて、嶺緒は甘くないものがいい。
なんでもいいっていうのは、逆に何にすればいいのか難しいと思う。

「千陽君は、駿さんの好きそうなものとか、駿さんのイメージで作ればいいと思う。涼太君は、生チョコのタルトとかにしようか」

「生チョコのタルト、甘くない?」

「ビターチョコで作れるから、大丈夫だよ」

「そっか。それにしてみよっかな」

嬉しそうにニコニコと笑顔を浮かべる涼太に、凛花さんも優しく微笑んだ
。涼太が嶺緒のことが好きであることが伝わってくる。
凛花さんもきっとそれを感じたのか、微笑ましそうに笑っていた。

「千陽君はどうかな」

「んー…、どうしよっかなって。バニラ使ったりしたいなって」

「チョコレートケーキにバニラアイスのトッピングでもいいね」

「難しくない?」

「簡単だから大丈夫だよ。さっ、材料見に行こうか」

弾む足取りで凛花さんに連れられて製菓コーナーへ向かう。
涼太も嬉しそうに先を行く凛花さんを追いかけていった。
ムズムズとした気持ちになりながら、ふたりを追いかけた。

買い物を終えて、金内先生に迎えに来てもらった。
金内先生は午後から仕事のようで、またすぐに出かけて行く。
お礼を伝えれば満面の笑みを浮かべて、楽しみにしてる、と笑ってくれた。
玄関で別れた時、凛花さんが金内先生の頬にキスをしているのを見て、こちらが恥ずかしくなる。
涼太も同じようで、ほんのりと頬を染めていた。

「ふふ、じゃあ、お仕事頑張ってね」

「ああ、凛花も、ふたりも美味しいの作ってね」

ひらひらと手を振って家を出て行く金内先生は幸せそうだった。

「手を洗って、早速作り始めようか」

手を洗い終わって、広いキッチンで3人で並ぶ。
アイランドキッチンは凛花さんのこだわりらしい。
広い作業台に材料を乗せる。

「じゃあ、まずは材料の量を量ってね」

「はーい」

返事をしてから、せっせと分量を測る。
料理は大体目分量でできる様になっていたから、この細かい作業は新鮮で楽しい。
隣の涼太は眉間にしわを寄せて、必死に量っていた。
その間に凛花さんが必要な器具を準備してくれる。
こうして始まった凛花さんの料理教室は、夕方近くまで続いた。

「できたー!!」

涼太の嬉しそうな声に思わず笑う。
チョコレートケーキもビターチョコで作った生チョコも、何回か作ってみてやっと納得のいくものが完成された。
何回も味見をしていたせいか、ちょっとお腹いっぱいだ。

「俺も、なんとかひとりでも作れそう」

「ふたりとも、頑張ったね。紅茶入れたから、できたお菓子で一息つこうか」

「はーい」

コクコクと大きく頷いてからダイニングテーブルにつく。
目の前に置かれたチョコレートケーキと生チョコ。
涼太の作ったものは少しだけ形が歪だったけれど、何度か作ったせいかだいぶ綺麗になった。

「凛花さん、お菓子作り上手だし、料理も上手なんでしょ」

「うーん、上手かどうかはわからないけれど、結婚するまではひとり暮らししてて、割とできる方だとは思うよ。結婚してからも主夫してるし」

「ひとり暮らししてたの?」

「うん。あんまり親と仲良くなくてね」

「俺も」

小さく頷くと、凛花さんが微笑んでくれた。
涼太も凛花さんも、お互いの番から俺の事情を聞いているのだろう。
駿さんの出会いも知っていてくれるから、深いことは聞かないでくれる。
それがどこか心地よかった。
だから、凛花さんが話してくれるまで、凛花さんの事情は聞かない様にしたい。

「ちゃんと明日も同じ様に作れたらいいな」

「大丈夫だよ。だってこんなに美味しいもん」

「そうだねー」

涼太と凛花さんが話すのを聞きながら思わず笑みが漏れた。
甘いものでお腹いっぱいで心地よい。
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