落ち着く香り
「ん…」

溺れるように抱き合って、また意識を失ったようだった。
目が覚めれば、センセーに抱きしめられながら眠っていた。
大きな腕が胸に乗っかっていて、苦しい。

「…ん、おもい」

よいしょ、と腕をどかして、センセーの寝顔を眺める。
肌はきめ細やかで、薄い唇は男らしい。
すっと伸びた鼻筋、切れ長な目、彫り深い顔立ち。
センセーの全てが魅力的で、同じクラスの女が色めきだっているのもよくわかった。

なんども、数え切れないほど抱かれて、意識を失ってようやく本能より理性が勝つようになった。
センセーの顔を眺めていると、くすぐったい気持ちになる。
眠っているセンセーは冷たくない。
手を伸ばして頬を突く。

ふと気になって、首筋に触れてみる。
まだ噛まれていないようだった。
それどころか、首に何か巻かれている。
首輪だろうか。
その首輪の後ろは、所々糸が出ていて、センセーが噛んだのだろう。
そう思うときゅうっと心臓が締め付けられた。


「センセー」

小さな声で呼べば、センセーが寝息を漏らした。
その音が、長い間身体を繋げていた証拠だ。
身体をつなげた後から意識はない。
きっとおそらく、センセーが全て綺麗にしてくれたのだろう。
身体は綺麗になっていて、おそらくセンセーのものであろうTシャツを着ていた。
布団をめくってみれば、センセーは下着だけ身につけている。
ぎゅっと抱きついてみれば、バニラの香りがほんのりと香った。
落ち着く香り。すんっと嗅いでみれば、煙草の香りもする。


「何してんの」

「ひょえッ」

「馬鹿みたいな悲鳴あげるな」
思わずセンセーの身体から離れて、両手を降参のポーズにする。
欠伸をしながら身体を起こし、降参ポーズの俺を見下ろした。


「噛まないの」

「まだ噛まない」

「まだってことはいずれは噛むんだ」

「そりゃな」

当たり前のように言うセンセーに、笑ってしまう。
首筋に巻かれたそれに触れると、センセーも同じように神経質そうな指先で触れてきた。
どんなデザインのものか気になって、見てみたくなる。
遮光カーテンを引いて、薄暗い部屋の中で、真新しくなったシーツの上で、運命を感じた。


「疲れてんだ、もう一度寝るぞ」

そう言われて身体を引き寄せられる。
そのままぎゅっと抱きしめられて、センセーを見上げた。
センセーは目を瞑って、また寝息を立て始める。


「寝るの早っ」

口から笑い声が漏れてから、目を瞑る。
起きたらきっとまた熱い熱に溺れることになるはずだ。
それまではゆっくりと休もう。
センセーの胸に顔を埋めて、息を大きく吸い込んだ。


「おやすみ」

小さく呟いてから、睡魔に手を伸ばした。


センセーと何度も抱き合って、ヒートに溺れてから一週間。
センセーはずっと付き合ってくれた。
眠っていても、ヒートに溺れてしまえば、センセーは目を覚まして俺の熱を冷ましてくれる。
快楽の海でふたりで浸って、ようやくまともな会話が続くようになった。
まだ中にセンセーのが残っているような気がする。

「やっと、終わった…」

長かったような、それでいて、短かったような熱く茹だるような日が終わって、センセーの顔がまともに見れるようになった。
センセー、と小さく呼べば、ベッドの中で疲れたように眠るセンセーが身じろぎする。
ベッドサイドに何個も転がったペットボトルを見て、苦笑した。


「センセー、起きて」

「…ん、…お前、タフだな」

「そんなことない、多分、まだ立てないし」

「声がガサガサだな」

何度も喘がされたせいで声を出すのも精一杯。
それでもこの倦怠感がどこか心地よかった。


「この首輪で、俺がΩってことがバレるね」

「いーんじゃね。どっちにしろ時間の問題だろう。うちの学校はαが多いし」

「そっか。ならいーや」

センセーは身体を起こし、ベッドヘッドに置かれた煙草を手に取った。
ライターで火をつけてから、深く煙を吸い込む。
遮光カーテンの隙間から漏れる陽の光を眺めてから、センセーへ視線を移した。
ぷかぷか浮かぶ紫煙を指先で追う。

「何してんの」

「んー、別に。これから寂しくなるなって思って」

「あ?」

「だって、こんなに人と一緒にいたの久しぶりだったから…、明日からマンションでまたひとりかあって思ったらさ。流石に俺だって寂しくなるって」

「…あー」

センセーは煙草をベッドヘッドの灰皿に押し付けてから、アッシュグレーの髪をかきあげた。
それから俺をちらりと見てから咳払いをひとつ。
大きな手が伸びてきて、寝癖のついた前髪に触れた。

「化学科資料室。放課後に来れば、たまには構ってやるよ」

「…まじで? …てか、センセーの部屋きた次の日から夏休みに入ってるじゃんっ」

「やかましい。うるせえとこの話はなかったことにするぞ」

「ンンン〜…ッ」

軽く握った拳でセンセーの二の腕を殴れば、センセーが苦笑した。
それから寝転がって、センセーを見上げる俺の隣に横になる。
頬を包み込む大きな手。
その大きさやあたたかさに目を細めた。
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