イタズラ
「ただいまー…」

「疲れているな」

駿さんの声に靴を脱ぎながら曖昧に返事をした。
確かに疲れている。
嶺緒と会うときは理由がなんであれ、少しだけ疲れてしまっていた。
今日も例外でなく疲れている。
靴を脱ぎ終えて部屋に入れば、駿さんがすぐにソファーに腰をかけた。

「千陽もおいで」

きゅんと胸が締め付けられて、いそいそとソファーに向かう。
駿さんの隣に腰をかけた。
ふわふわの甘いバニラの香りで包まれる。
あたたかくて、ホッとするその香りに頬が緩んだ。

「駿さん〜っ」

甘えた声が漏れて、駿さんに抱きついた。
大好きって少しでも伝わればいいなって思いながら、ぎゅうぎゅうとしがみつく。
抱きしめ返してくれた駿さんは俺を膝に乗せて、肩に顔を埋めた。
すんっと匂いを嗅ぐ音が聞こえてきて小さく身をよじる。

「なあに、匂い嗅いで」

「いい匂いがするなって思って。千陽は甘いバニラの香りがする」

「…ん、ほんと? 駿さんもバニラの匂いがするよ。俺の大好きな匂い」

そう呟きながら、駿さんの背中に腕を回す。
体温が混ざり合って心地よくてたまらない。

「…長峰と会ってよかったか」

「…うん。涼太が嬉しそうに笑ってたから」

身体を少し離して、駿さんの頬に触れた。
何度か指先で撫でて、小さく笑う。

「涼太の笑った顔、駿さんに似てるから、嬉しい」

両手で頬を包んで、唇を寄せる。
そっと綺麗な瞳が隠されるのを眺めてから、唇を重ねた。
背中を撫でてくる大きなてのひらがくすぐったくて、小さく笑った。

「千陽」

優しく名前を呼ぶ声が暖かい。
微かな喘ぎをこぼしながら、男らしい喉仏を撫でた。
神経質そうな指先がニット越しに背骨をなぞろうとする。
その手に笑っていると、唇を強引に塞がれた。

「ん…ッ」

ニットの裾から大きな手のひらが背骨をくすぐる。
ゾクゾクと肌が粟立ち、気持ち良さが身体を包み込んだ。
熱い熱が身体を渦巻いて、交わした吐息の中で交わって行く。
バニラの甘い香りが漂って、二人を包み込んだ。
ゆっくりとソファーの上に押し倒されて、唇を奪われる。

「っは、ああ…、ここでするの…?」

「したくないのか」

「…意地悪」

ぎゅっと抱きついて、首筋に顔をすり寄せる。
火照った頬を冷やしたい。
いや、もっと熱くなって、吐息が白く見えるくらいまで…。
ニットを脱がされて、薄い身体が露わになる。
熱を帯びてしっとりと汗をかいていた。
暖房の熱とこの興奮からくる熱。
溺れるように、喘ぐように吐息をこぼした。

「はっ、あ…」

駿さんの薄い唇が首筋を伝い、胸に赤い花を散らす。
薄い腹に触れた唇が、リップ音をたてもうひとつ。

「あ…、しゅんさ…、も、脱いで…」

「ああ」

さっと脱いだ駿さんが覆いかぶさってくる。
お互いの肌が触れ合って熱を帯びた。

「…あ」

かちゃりとジーンズのベルトを外された。
露わになった灰色の下着が濡れているのを見られる。
恥ずかしくて、手のひらで隠せば気の抜けた笑い声が聞こえてきた。

「今更隠すな」

「だって!」

「すぐ脱がす」

「見ないでって!」

「可愛い」

笑いながら、そこを隠す手の甲にキスをされた。
その唇が熱を帯びていて、何も言えなくなる。
手を外して、身体を起こした駿さんのベルトを外した。
下着を露わにすると、ゆるく立ち上がったそれが目に入る。
指先で何度か撫でながら、息をこぼした。

「は…、こら、イタズラするんじゃない」

「ん、仕返し」

「…悪い子だな」

そう言って俺に覆いかぶさってきた駿さんは嬉しそうに笑っていた。
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