大人
自宅に帰って、食材を冷蔵庫にふたりでしまう。
それから、一緒に洗濯物と掃除を終わらせて、作り置きのおかずを作り始めた。
ヒートに入ってしまえば、まともに食べたりできなくなる。
簡単に食べられるようにあらかじめ作っておけば、なんとかなるだろうとふたりで準備をしようと決めた。
「千陽、ドライカレーできたから、冷蔵庫入れといて」
「んー。おいしそ」
「そうか。あとはひじきときんぴらごぼうと、蒸し鶏作っておくか」
「ん」
ふたりでキッチンに立って、駿さんから作り方を教わる。
ゆっくりと流れていく時間に身を任せて料理を続けるのが楽しい。
教師をしていた時の駿さんを思い出して嬉しい。
「料理は化学の実験みたいなもんだからな」
「そうかな」
「ああ、あれとこれを一緒にするとこの味になるからって」
「確かにそうだね。駿さん料理好きなんだ」
「まあな。そうめんばかり作ってるけど」
「それは手抜きでしょ」
小さく笑いながら駿さんがせっせと料理を続ける。
そうめんじゃない料理を作ってる駿さんが珍しくて面白い。
「ほら、味見」
「ん」
「うまいか」
「うん、おいしー!」
「そりゃよかった。だいぶ作れたな。あとはこれを冷蔵庫にしまってっと」
「ん、俺やるよ」
ホーローの中に入れた料理を冷蔵庫にしまう。
これで、ヒートの間に料理をしなくても、すぐに食べられる。
うんと伸びてから、手を洗ってリビングへ向かった。
味見をしていたからお腹はいっぱいだ。
「味見ばかりしてたから腹がいっぱいになってるな」
「ん、俺も」
「余った野菜でスープ作ってあるから、またお腹が空いたら食べるか」
「そうしよー。ゆっくり休も」
「そうだな。一気に家事終わらせたから疲れただろ」
「んー」
リビングのソファーに腰を下ろして、テレビをつける。
夕方のテレビは面白い番組はやっていない。
ニュース番組をぼんやりと眺めた。
「あのさ、駿さん」
「ん? どうした?」
「俺ね、嶺緒に会おうと思う」
「…長峰にか? どうして」
「嶺緒、ずっと俺のこと探してて、前に進めてないって涼太が言ってた。涼太は嶺緒のことが本当に好きで、運命の番で。でも嶺緒は、俺が突然いなくなったから、前に進めてない。…だから、ちゃんと俺の状況を伝えて、前を向いてほしいなって」
勢いよく話終えれば、駿さんが立ち上がった。
その後ろ姿に不安を感じて、ぎゅっと口をつぐむ。
怒らせてしまったかもしれない。
駿さんは暖かい紅茶を入れて戻ってきた。
それからはあ、とため息をひとつついて優しく笑う。
「お前がそう思うんだったら、それで構わない。ただ、その場に俺も一緒に行くが、構わないか」
「うん。来てくれた方が、安心できるから」
「ああ。涼太に伝えておこうか」
「うん、お願いします」
こくりと頷いたら、駿さんはすぐに涼太にメッセージを送った。
返信はすぐに返って来て、日時が決められる。
膝を折って三角座りをしてから、膝に顎を乗せた。
「千陽」
「ん?」
「……、いや、なんでもない」
「変な駿さんー。ちょっとお腹減って来たかも」
「そうだな。スープ温めてくる。
キッチンへ向かった駿さんを追いかける。
お皿を用意してから、使い終わったものを洗って、準備をした。
温めたスープをお皿に入れて、ダイニングテーブルに並べる。
「美味しそう」
「そうだな。明日はここにトマトとチーズ入れようか」
「もっと美味しそうだね」
「それはよかった」
スープを一口飲む。
暖かくて優しいコンソメの味。
よく煮込まれたベーコンもとても美味しかった。
「んー、おいしい
」
「珍しく箸が進んでるな」
「なんか、お腹すいて」
「ヒートが近いからだろうな。…眠気はどうだ」
「そんなにひどくないよ」
「身体が慣れて来たからかもしれないな」
駿さんの言葉に頷いて、笑った。
そっか。
大人になって来てるんだ。
それは、嬉しいかもしれない。
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