診察
涼太に別れを告げてから、診察室に入る。
今日は他の患者も中待合室にいたため、駿さんは廊下で待っててもらった。
「どうかな、ヒートの後、怖いとか感じてない?」
「んー…、それから忙しかったりでしてないから、怖いかまだ、わからない。……前回も、本当にヒートで意識がなくなりそうなくらいの時にしたから」
「そっか。もし、怖いとか不安な気持ちが少しでもあったら無理はしちゃダメだよ」
「うん。今日は、内診するの?」
「子宮の様子を確認しておかなければいけないからね」
「そっか。…あ、の、駿さんにそばにいてもらってもいい?」
「もちろんだよ。彬くん、呼んできて」
「はい。駒門さーん、診察室までお越しください」
駿さんがきてから、一緒に内診室に入る。
一応大きめのTシャツを着てきて良かった。
黒いスキニーパンツを脱いでから、診察台に横たわる。
カーテンを引かれて、駿さんの手をぎゅっと握った。
「千陽、怖いのか」
「…ん、でも駿さんがいてくれれば大丈夫」
「そうか」
大きなてのひらが髪を撫でてくれる。
優しいその手の暖かさにホッとした。
「それでは、内診はじめるね。指が入るよ」
「は、い…っ、ん」
指が中に入り込んできて、奥へ奥へ進む。
駿さんの手をぎゅっと握って、甘噛みした。
一番奥の所に指が当たり、ピクリと腰が揺れる。
「うん、体内も大丈夫。ヒート前の準備もバッチリだね」
「ん、良かった」
「もう少しだからね。次は機械入れて、内部の様子確認するよ」
「はい」
指が抜けて、ぶるりと震える。
ゼリーをまとった機械が内部に入り込んできて、背中がざわざわとした。
「…千陽、大丈夫か」
「うん…、なんとか。ごめん、噛んで」
「気にするな」
駿さんを見れば、不安そうに眉を寄せていた。
大丈夫と笑いかければ、駿さんも困ったように微笑んでくれる。
「よし、終わりだよ。身支度が終わったらそのまま診察室に来てね」
「はい」
終わってからゼリーを綺麗に拭き取ってから、下着とズボンを履く。
駿さんを見上げれば、ホッとしたような顔をしていて、思わず笑った。
「駿さんの方が不安そうだね」
「…そう見えるか」
「うん。大丈夫だよ、駿さんがそばにいてくれたからね」
微笑んでそう伝えれば、駿さんも笑ってくれた。
それから内診室から出る。
診察室に入り、椅子に腰をかけた。
「お疲れ様。うん、前回よりは成長しているね。けれど、まだ成熟してるわけではないから、しっかり避妊してね」
「そっか、良かった。どれくらいで、大丈夫になるの?」
「ううん、こればかしはなんとも言えないかな。ただ少しずつ成長してるから。焦らないで、ゆっくり成長していこうね」
「うん」
診察を終えてから、診察室を出る。
駿さんに手を引かれて歩いていると、涼太とすれ違った。
ひらひらと手を振ってから、受付へ向かう。
駿さんが会計を済ませにいくのを椅子に座って眺めた。
広い背中。
紺色のセーターに白いパンツを履いている。
駿さんのコートと自分のコートを持って立ち上がった。
そばによるとちょうど会計が終わったようで、駿さんが振り返る。
コートを着込んで、マフラーを首に巻いた。
手を握れば、駿さんが小さく笑う。
「ヒートに入る前に買い物行っとくか」
「うん、そうだね。…食料と、洗剤とか、あとトイレットペーパーも…、あと何があるかな」
「ゴムも無くなりそうだったから、買い足しとかないと」
「ちょっと、ここ、外っ」
「照れてる」
「照れてないっ」
駿さんの手が伸びて来て、さっと頭を撫でられた。
手を引かれながら、病院を後にして車に乗り込む。
うんと背伸びをしてから、シートベルトをつけた。
「じゃあスーパー行って、ドラッグストア寄ってくか」
「ん。お願いしまーす」
「ああ」
駿さんが音楽を流す。
その音楽を口ずさみながら、窓の外を流れる景色が流れて行った。
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