優しい顔
駿さんと一緒に、ヒート前の診察にやってきた。
もしかして、涼太がいるかもしれない。
そう思っていたら、やっぱり待合室に栗色の髪が見えた。

「涼太」

「あっ、ちー」

「いると思った」

「俺も」

俺の隣に立っている駿さんが、涼太に挨拶をしてから飲み物を買ってくると離れた。
涼太の隣に腰を下ろして、うんと背伸びをする。
その姿を見て涼太が小さく笑った。

「ちー、元気そうだね」

「…まあな。気にするものもなくなったし」

「そっか、良かった」

そっと左手の薬指にはめた指輪に触れた。
なんでも指先で撫でてると、涼太が微笑んだ。

「おめでとう」

「…ん、ありがとう。あんた、嶺緒とは」

「何も、変わってないよ」

「何も…」

「あ、のさ、こんなこと言うの、ずるいと思うけれど…」

小さな声で涼太が呟く。
涼太はどこか切なそうな表情をしていた。
その表情に、胸が痛む。

「…嶺緒くんと、あってほしい。前に進めてほしい。…そうでないと、いつまでも彼だけ前に進めない。ずっと鹿瀬の家に…、ちーに囚われたままなんだ」

「…そ、れは…」

「俺、わかるんだ。嶺緒くんの運命のΩは俺だって、匂いが本能が教えてくれる。それは、嶺緒くんも気づいている。でも、心が追いつかないの」

「嶺緒に、俺のこと言わなかったの」

「だって、ちーと約束したから。…俺は嶺緒くんの番として、彼を愛してる。それに嶺緒くんを幸せにしたいよ…」

「だったら、言えば、良かったのに」

「でもね。…それと同時に、同じΩの君を大切にしたい、裏切りたくないって思ってるの。だから、俺はちーのことはちーがいいよって言わなければ、伝えない」

涼太が切なそうに笑う。
その笑みにグッと辛くなった。
嶺緒に会えば、複雑な気持ちになる。
あの家から解放された。
あの家を、嶺緒に会えばいやでも思い出す。

「…、お、れ、そんな価値、ない。涼太にそこまで言ってもらう価値なんてない」

「ちー、人間に価値なんてないんだよ。Ωもαも、βもみんな同じ。確かに世界はαに圧倒的に有利で、αに価値があるように見えるかもしれない。でも、本質はみんな同じ、体を作るものも同じ。だから、千陽にも、俺にも、駿ちゃんにも嶺緒くんにも、価値なんて存在しない」

ぎゅっと重ねられた手が温かくて、涼太を見た。
涼太は優しい顔をして俺を見つめている。
その表情にポタリと涙がこぼれた。

「…なんでちーが泣くのさ」

「涼太が、優しいから」

「ふふ、ちーは面白いこと言うね」

「…涼太、もう少し、待って」

「え?」

「嶺緒と、会うよ…。でも、まだ気持ちの整理が付いてない。駿さんと、話させて」

「…い、いの、ちー。…でも、ほんとに、いいなら、俺、」

「俺の、わがままで、あいつの…、涼太の幸せを壊せない。…それに、俺も、涼太のこと大切にしたい、って思う」

小さな声でそう伝えれば、涼太が微笑んだ。
ぎゅっと握られた手を握りかえす。

「あってそんな日が経つわけじゃないのに、涼太は変な奴だな」

そう言って笑えば、涼太が首を振った。
それから、千陽もね、っと笑ってくれた。
prev | next

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -