朝食
家に着いてから、お揃いの食器を食器棚に片付けた。
夕飯は少しいいところで食べてきた。
お風呂に入って眠るだけの格好になって、ベッドに入る。
暗い寝室の中、駿さんに笑いかけた。

「ねえ…、駿さんって、子ども好き?」

「ん? 子ども? 嫌いではないよ」

「どっちよ、それ」

「…お前との子どもなら、可愛くて仕方がないと思う」

「…そっか」

ゴロンと寝返りを打って、小さく笑う。
嬉しいな、と心の中で呟いていると、後ろから抱きしめられた。
薄いシルクの布越しに感じるぬくもりと鼓動。

「駿さん、あったかいねー」

「お前もな」

優しくて温かい、心地よい感覚にうとうとと眠気が襲ってきた。
寒くなってきた今日この頃の中、この幸せの中眠るのは少しだけ、いや、うんと贅沢な気がする。
駿さんの寝息が耳元で聞こえて、そのまま眠気に身を任せた。

「ん……、んんー」

眠たい。
重たい腕をそっと動かしながら、ベッドから這い出る。
駿さんの寝顔を眺めて、思わず笑った。
起きているときよりもどこか幼い。
そんな彼が好きだと思う。
駿さんの頬に唇を寄せてから立ち上がった。

「朝ごはん作って、いいところで駿さん起こして、洗濯物して、お掃除して…」

背伸びをしながら部屋を出る。
今日の予定を考えながら、笑みがこぼれた。
駿さんが起きる前に、ご飯作らないと。
キッチンへ出て、冷蔵庫を開ける。
お豆腐の味噌汁と、納豆、卵焼きと塩鮭を用意することにした。
これから和食を作れるように勉強しよう。
そう思いながら、鮭の切り身から準備を始めた。
空気の入れ替えのため開けた窓から朝の冷たい風が入ってくる。
鼻歌がこぼれた。

「よし、グリルに入れてっと」

塩鮭をグリルに入れてセットしてから、開いた窓を閉めた。
それからキッチンに戻り、鍋にお湯を沸かした。

「いい日だなー」

小さく呟きながら、せっせと料理を続けた。

料理を作り終えてから、うんと背伸びをする。
テーブルの上に料理を並べた。

「よし、起こしてこよ」

ダイニングから寝室へ向かう。
駿さんの寝室に入ると、まだ同じ格好で眠っていた。
ベッドの端に腰を下ろして、少しヒゲの生え始めている頬に触れる。

「ふふ、チクチクする。駿さーん、おはよ、朝だよ」

ムニムニと頬を摘めば、眉間にシワがよって駿さんが声を出した。

「んー、ちはる」

「駿さんの千陽ですよー。ほれ、起きて起きて」

「あー」

薄目を開けた駿さんが俺を見る。
ふわりと笑みを浮かべて、俺の頬に手を伸ばした。
暖かい手が頬を何度か撫でて、ムニっと摘まれる。

「仕返し」

「はは、駿さん、子どもみたい」

「時には大人も子どもになるんだよ。…千陽、早起きだな」

「まーね。ご飯作ったよ、食べよ」

「お、ありがとうな」

よっと、と声を出しながら起き上がった駿さんは俺の頭を撫でた。
立ち上がって、駿さんと一緒にダイニングへ向かう。

「…お、うまそうだな」

「そ? まあ、食べて食べて」

「ああ」

いただきますの挨拶をしてから、出来立ての朝食をふたりで楽しんだ。
駿さんが嬉しそうに笑っているのが嬉しい。

洗面所に立って駿さんがヒゲを剃るのを眺める。
大人の仕草を眺めていると、駿さんが首をかしげた。

「どうした、そんなにこっちを見て」

「んー、ヒゲ剃るの楽しい?」

「はあ? …髭剃りなんて面倒なだけだぞ」

「そー?」

「千陽は生えそうにないもんな」

意地悪そうに笑う駿さんに、ムッとした。
それから、顔を洗って濡れた手についた雫を駿さんにかける。
こら、と軽く怒った声が優しくて、小さく笑った。

「今日は何したい?」

「ん? 掃除して、洗濯して、ゆっくりしよっかなって。駿さんなにかしたいことある?」

「いや。一緒に掃除と洗濯するか」

「ん。それ終わったら、ゴロゴロしよ」

頷いた駿さんがポンポンと優しく頭を撫でてくれた。
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