お揃い
「千陽、おいで」
車から先に降りた駿さんに呼ばれて、小走りで近寄る。
手を繋いで一緒に歩いていけば、市役所のどことなく緊張したようなそれでいてゆったりとしたような雰囲気の中に入り込んだ。
「これから、お前、駒門千陽になるんだぞ」
「…ん。駿さんのになるんだね、俺」
小さな声で答えれば、駿さんが嬉しそうに笑った。
鞄の中から封筒に入った書類を取り出す駿さん。
左手の薬指には指輪。
それから、首に巻かれたチョーカー。
一生懸命書いた婚姻届。
これから駿さんのものになるんだ。
「よろしくな、千陽」
「ん。よろしくね、駿さん」
一緒に書類を提出して、職員さんからお祝いされた。
今日が、入籍記念日になりますね。
笑顔の職員さんに言われたとき、駿さんが優しく笑った。
嬉しくて、ホッとした。
「んー! なんか、不思議な気持ち」
「そうだな」
「駿さん」
「ん?」
なんでもないって笑えば、駿さんも同じように笑った。
買い物行くかって手を引いてくれた駿さんについて行く。
晴れ渡った空が綺麗で、嬉しくなった。
アウトレットモールについて、手を繋いだまま歩く。
一緒に食器を眺めていると、可愛らしい夫婦茶碗を見つけた。
「これは?」
「珍しいな、緑と灰色の茶碗」
「ね。駿さんと俺みたい。ちょうど緑色小さいし、俺これくらいなら食べれるよ」
「そうか。じゃあ、これにしよう。ついでに箸も同じ色で揃えるか」
「うん!」
カゴの中にそっと箱に入った茶碗を入れた。
それから、ふたりで箸のコーナーを眺める。
「あ、あった」
「お前、見つけるのうまいな。綺麗な色だな」
「うん。これにしよ。第一印象大事」
「そうだな。あと何か…、あ」
駿さんが声をあげたのを聞いて、駿さんの方を見る。
手を引かれてそばによると、マグカップの棚にたどり着いた。
「あ? なに」
「マグカップもあった」
「このシリーズ重宝します。…いい?」
「この際あるやつ全部買っちゃうか」
「いいの?」
「もちろん」
嬉しそうに笑った駿さんに、俺も思わず笑った。
そのまま一緒に、カゴに入れる。
マグカップを入れて、それからコップをカゴに入れた。
「…使うの楽しみだね」
「あぁ。早速夕飯のときに使おうか」
「うん。一緒にご飯作ろうね」
優しく微笑む駿さんの手を握る。
レジで会計を済ましてから、店を後にする。
ブラブラとウィンドウショッピングをしてから、車に乗り込んだ。
「千陽、最近体調良さそうだな」
「んー? そうかな」
「ああ。目の下のクマも無くなったし」
駿さんに促されてシートベルトをつける。
それから車が動き出して、膝の上の紙袋をしっかりと持った。
「後ろに乗せればよかったのに」
「壊れたらやだもん」
「そんなに簡単に壊れない」
「そうなんだけどさ。早く使いたいなあ」
「はしゃいでるな」
「嬉しいからねー」
窓の外を眺めながら、鼻歌を歌う。
キラキラの秋空はもうじききっと冬空になるはずだ。
「結婚式、いつがいい?」
「んー…夏がいいなあ…」
「夏? どうして」
駿さんを見て小さく笑う。
夏のあの暑い日を思い出した。
「だって出会ったの夏だから。ずっと忘れられないよ。何日か覚えてる」
「覚えてるのか」
「七夕だよ」
「ああ、そうだったな。あの日の夜は星空が綺麗だったな」
そう言って笑う駿さんの声はとても優しかった。
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