証人
「いらっしゃい、駿くん、千陽くん」

午前中から駿さんとふたりで車に揺られ、金内先生の家を訪ねた。
前に電話が来た時に、今日、婚姻届のことを約束していたそうだ。
本当に駿さんは手際がいい。
俺の知らないうちにドンドンいいようにことを勧めてくれる。
一回りの年の差を時々恨めしく思う時があった。

「どうぞどうぞ」

リビングに案内されると、キッチンから物音が聞こえて来た。
ソファーに腰を下ろして駿さんをちらりと見ると、駿さんがポンポンと頭を撫でてくれる。

「緊張してるな」

「ん、俺、人見知りするし…」

「そうか」

「優しい奴だから安心しな」

「ん」

もう一度頭を撫でてくれて、その気持ち良さに笑う。
金内先生がキッチンへ行って、話し声が聞こえて来た。

「千陽くん、私の番を紹介させてね」

金内先生が嬉しそうに番の方を連れてくる。
四人ぶんのお茶の入ったトレイがテーブルに置かれるのを見て、顔をあげればニコニコと笑う金内先生と少し恥ずかしそうに笑っている人がいた。

「初めまして、千陽くん。金内凛花です。優さんの番なので、僕も同じΩだから、何かあった時は相談に乗るから、よろしくね」

「…あっ、えっと…、鹿瀬、千陽です」

緊張して小さな声で挨拶すれば、隣で駿さんが笑った。
そんな駿さんを見てムッとすれば、今度は金内先生と凛花さんも笑う。

「千陽くんは17歳なんだっけ」

「うん」

「凛花は20歳だから、歳も近いし私や駿くんより話があうかもしれないね」

こくりと頷けば、凛花さんが微笑んでくれた。
それからお茶が目の前に置かれて、お礼を伝える。
隣の駿さんが先に口をつけたのを見てから、手を伸ばした。
温かい紅茶が美味しい。

「あ、ちょっと待っててね。美味しいお茶菓子昨日買って来たんだよ。ね、優さん」

「うん、凛花、持って来て」

「うんっ」

キッチンへ戻って行った凛花を目で追いかける。
自分より5センチほど背の高い凛花は細くて綺麗な身体をしていた。
顔立ちも自分とは違って甘くて優しい感じ。
Ω特有の美しさに、同じΩの俺でも綺麗だと思った。

「千陽くん、甘いの好き?」

「うん、好き」

戻って来た凛花さんに訪ねられて答える。
目の前に出されたマドレーヌとクッキー。
美味しそうな香りに目を輝かせた。

「いっぱい食べてね。僕も優さんも甘いのは好きだけど、こんなにたくさんあると食べきれないから」

「うん。いただきます」

紅茶を一口飲んでから、マドレーヌをいただいた。
甘くてほのかにレモンの味がする。
紅茶ととてもあう味で、ほっぺが落ちてしまいそうだった。

「美味しい…」

「そっか、よかった。マドレーヌにして。優さんもマドレーヌ好きだもんね」

「ふふ、可愛いねえ、駿くん」

凛花さんを見ながら、嬉しそうに笑った金内先生。
駿さんも俺をちらりと見て笑った。
ホッと一息ついてから、駿さんが鞄の中から書類を取り出す。
ふたりで一緒に書いた婚姻届を出して、金内先生に手渡した。

「とうとう、この時が来たんだね。駿くんと千陽くんの証人になれるなんて思わなかったよ」

「ああ、千陽が緊張しながら一生懸命書いたんだから、間違えるなよ」

「プレッシャーをかけないでおくれよ」

「駿さん、恥ずかしいから言わないでよ!」

金内先生と俺の言葉に駿さんと凛花さんが笑った。
テーブルを綺麗に拭いてから、金内先生が先に書き始める。
綺麗な字で書き込まれていくのを眺めていると、駿さんが俺の手を握った。

「よし、終わり。凛花、こっちおいで」

「はい」

金内先生と場所を交代した凛花さんが書いていく。
凛花さんの字は金内先生の字とよく似ていた。
時間をかけて書いた凛花さんは書き終えると、ふうっと一息つく。
出来上がった書類を駿さんが受け取った。

「ありがとう」

一言告げた駿さんが、安心したように笑った。
それにつられて、俺も思わず笑う。

「…少し緊張しちゃった。自分のを書くときよりも緊張したかも」

そう言って笑う凛花さんに、金内先生が微笑んだ。

「駿さん」

小さく名前を呼べば、駿さんが俺を見て微笑んだ。
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