キス
実家から駿さんのうちの駐車場についた。
駿さんはどこか不機嫌で、無言のまま一緒に車から降りる。
疲れたのもあったし、話しかけるなという雰囲気を感じていたから、話しかけない。
それでもエレベーターに乗る前には手は繋がれていて、ホッとした。
この温もりが心地よくて、落ち着く。
部屋の鍵を開ける駿さんの横顔を見る。
まだどこか不機嫌だった。
玄関のドアが開き、中にはいる。
靴を脱いでいると、駿さんが立ち止まった。

「どうしたの」

「千陽」

両手を開いた駿さんに首を傾げながら、腕の中に入った。
ぎゅっと抱きしめられて、思わずスンッと匂いをかいだ。
バニラの香り。

「駿さん、あったかいね」

「お前もな」

「…どうしたの」

俺の問いかけに、腕の力が強くなった。
駿さんの背中に腕を回して、スーツを握る。

「…お前と夫婦になれるのは、嬉しい。…ただ、こんなやり方で、認められたくなかったって、思って」

「そっか。…俺は、やっとあの家から解放されるんだなって思ったよ。自由になれたって」

「ああ、そうか。お前は、そういう風に思ってくれたんだな。…正直に話せば、お前の両親を憎いと思った。お前を蔑ろにして、お前に家族の愛を教えず、まともにΩとしての身体の守り方も伝えない。そんなの、許せるかって…」

駿さんのどこか苦しそうな声に、息を飲んだ。
そこまで深く、思っていてくれたんだ。
そう思うと嬉しくて、駿さんの肩に額をすり寄せる。

「んん、もうあんな人たち、気にしなくていいよ。もう俺は駿さんの家族だから。駿さんがこれから家族の愛も、Ωとしての俺を教えてくれればいい。俺はその方が幸せ」

そう伝えれば、駿さんがピクリと肩を揺らした。背中に回っていた腕に力が入って、強く抱きしめられる。

「そうだな…。俺がお前に、教える。…ああ、そうだな。…お前は本当に、かわいいな…」

声にならない声で耳元で囁かれる。
なんども背中を撫でられて、小さく笑えばどちらともなく身体を離し唇を重ねた。
深く、熱く、絡まるように重ねる。
駿さんの熱が移り、広がった。

「駿さ…」

「千陽」

「ん…」

背中を支えられて、深まるキスに息が荒れる。
気持ちよくて、幸せで仕方がない。
スーツの手触りを感じながら、キスの合間に笑った。

「ん…、はっ、あ、あ、…ふふ、幸せ…」

荒い息の中、そう呟けば、駿さんも笑う。
ふたりでキスの合間に笑って、何度もキスをした。

「も…、そろそろ、部屋いこ…」

「ああ…、そうだな」

ちゅ、と軽く可愛いキスをしてから、身体を離す。
少し照れるように頭をかいた駿さんに笑った。

「夕飯食ったら、婚姻届書こうか。書いたら、明日、金内に証人として名前を書いてもらおう。千陽…先風呂に入っておいで。夕飯作っておくから」

「ん。いいの?」

「ああ。疲れただろう」

「実は。…お先失礼します」

そう言って笑いながら、駿さんに背伸びしてキスした。
お風呂場へ行く途中に、駿さんの笑い声が聞こえてきて、小さく笑う。
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