あたたかい家
体調が良くなってから、駿さんと一緒に駿さんの実家に向かった。
車の窓から眺めていて、お城みたいで豪華だななんて思っていた家に案内された時は少し笑った。
それでも緊張していて、そわそわしている。
駐車場に車を停めた時、駿さんにぎゅっと手を握られた。

「緊張しているのか」

「…うん、好きな人の家に、行くなんて初めてだし」

「そうか」

「俺なんか、認めてくれるのかな」

「…俺なんかっていい方、好きじゃないな。お前は俺が選んだんだ。自分になんか、なんて簡単な価値をつけるな」

駿さんにそう言われてぎゅっと胸が苦しくなった。
この人に選んでもらって良かったって心の底から思う。
駿さんの手を握り返した。

「あの、キス、してほしい」

頬が熱くなるのを感じながら、駿さんを見つめる。
この人からもらえるキスが、勇気をくれる。生きていたい理由になった。

「甘えただな」

そう言って笑った駿さんが、優しく唇を重ねてくれる。
甘い香りが車の中を満たしてくれて、幸せでたまらない。

「ん、ありがと。落ち着いた」

「そうか、千陽」

「ん?」

「愛してるよ」

「なあに、急に」

愛してるよ、って笑った駿さんはとても優しかった。

チャイムを鳴らす駿さんの指先を視線で追いかけた。
豪華なドアがすぐに開かれて、息を飲む。
そこには駿さんが少し年を取ったような姿の男の人と、綺麗な男の人がいた。

「ただいま」

「おかえり、駿。それから、いらっしゃい、千陽さん」

「あ…、お邪魔、します…」

早く、と綺麗な男の人に手を引かれて、駿さんを見上げる。
駿さんは苦笑しながら、俺の手を取ってくれた。

「わ、わ」

そのまま連れられて、リビングと思われる広い部屋に通される。
豪華なソファーに座らされて、キョトンとするしかない。

「こら、花純」

「あ、ごめんなさい」

「千陽さん、驚かせてすまないね。どうも、駿の父の駆かけるです。こちらは家内、花純かすみです。よろしくね」

「千陽さん、駿の母の花純です」

目の前に座ったふたりがニコニコと挨拶をしてくる。
怖そうではなくて良かったと思うが、これもこれで緊張してしまった。
ぎゅっと手を握りしめていると、駿さんが背中を撫でてくれた。

「今日は挨拶しに来ただけだから」

「そうなの、駿」

「ああ、鹿瀬の家にもいくつもりだから、何かあったらフォロー頼む」

「ああ、そのことなら心配ない。私からも鹿瀬の上層部には話を通しておいたからね」

駿さんと駆さんが話しているのをぼんやりと眺めていると、目の前に座った花純さんが微笑んだ。
綺麗な髪が空調の風に揺れる。

「千陽さん、苦労したんですね。僕も駿から聞いただけだから、なんとも言えないけれど…。同じΩだから、なんでも話は聞くし、相談にも乗りますから」

「あ…、ありがとう、ございます」

ホッとした。
駿さんの笑った顔は、花純さんに似てるんだ。
そう思うと、緊張も少し溶ける。
思わずつられて笑みを浮かべれば、花純さんも笑った。

「駿さんから話を聞いていたけれど、やっぱり笑うと可愛いですね」

「いや、そんなこと、ないですよ」

「千陽さん、駿をお願いしますね。僕も駆さんも、ふたりのことを応援してますから」

「ありがとうございます」

小さな声でそう呟けば、花純さんはもう一度微笑んでくれた。
優しくて甘い笑み。
それが駿さんと似ていて、落ち着く。

「駿。じゃあ、しっかりとな」

「ああ。話がまとまって先に進めるようだったらまたくる。千陽いくぞ」

「駿、もう行くんですか? まだ千陽さんとお話ししたいのに」

「また近いうちに来ることになるだろうから」

「はいはい、あなたはいったら聞かない子でしたね。じゃあ、千陽さん、いってらっしゃい」

「あ、あ…、行ってきます」

ひらひらと手を振るふたりに挨拶をしてから、駿さんに手を引かれ駒門家を後にした。
本当に滞在時間が少なくて驚く。
花純さんにいってらっしゃいって言われて嬉しかった。
あたたかい、家だって思った。
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