触れたいのに
ゆらゆらと脳みそが揺れるような感覚に酔う。
息が荒くなって、腰がジュクジュクと重くなってきた。

ヒートが来たのだろう。
まだ緩い波で我慢はできた。

「…う…」

ジワリと普段は濡れないそこが濡れ始めて、息を漏らした。

「千陽?」

不意に名前を呼ばれて、顔を上げた。
駿さんが身体を起こして、俺を見下ろす。
綺麗な瞳が欲に濡れている。
唇を触れ合わせて、腰に大きなてのひらが触れた。

「…、っ、」

「千陽…」

てのひらの感覚に身体が震えて、背筋が冷たくなった。
身体が震え始めて、涙が溢れる。
身体は熱を持ち始めているのに、冷たくなるような。
わけのわからない感覚に涙が止まらなかった。

「…やっぱり、怖いんだな」

「…ん、ご、め…」

「今、抑制剤持ってくるから」

「ん…、ごめ…」

抗えないほどではない。
駿さんも同じようで、ぐっと拳を握りながら棚へ向かった。
棚の中から特効薬を取り出して、戻って来た駿さんが俺の下腹部に打ち込んだ。
駿さんもすぐに太ももに抑制剤を打ち込んで、俺を抱き上げる。

「…ん、…」

「すぐに波が引くだろうから…」

「ごめん…、駿さん、ごめんね…」

寝室のベッドに降ろしてもらってから、駿さんに抱きしめてもらう。
きっと辛いと思うのに、それでも側にいてくれた。

「…したいのに…」

「千陽?」

「…ほんとは、したい、のに」

「…」

「それなのに…」

ボロボロと涙が溢れ始める。
頭も痛くなって来て、身体の熱が気持ち悪かった。
切なくて、悲しくて仕方がない。

「…触れて欲しいのに…」

「今は休みな。…千陽、無理にしなくてもいいから」

「…頭痛い」

「ああ、ごめんな」

駿さんの辛そうな顔に、涙で視界が歪む。
ぎゅっと抱きしめてくれて、目を瞑った。

「今は、ゆっくり眠れ」

額に口付けてもらって、そのまま眠りについた。

目がさめると、ヒートは収まっていた。
きっと抑制剤が効いたのだろう。
駿さんと、やっと身体を重ねることができたのかもしれないのに。
そう思うとズシンと胸が重くなった。
隣で眠っているはずの駿さんがそこにいなくて、余計に胸が重たくなって仕方ない。
駿さんと、一緒に熱を共有するはずだったのに、自分の身体が怖がるのが辛かった。

「…どうしたら、いいの」

あんなにも心が駿さんを求めていたのに、身体が心を裏切って怖がる。
布団の中にくるまって小さくなった。
駿さんの顔を見るのが怖い。
いつまでも怖がっている自分を、いずれ駿さんが見捨ててしまうのではないだろうか。
ぐずぐずと涙が流れ始めて、枕に顔を埋めた。
駿さんの匂いがしてまた熱がぶり返していく。
あと五日間もこのままと考えると、悲しくて心が冷えていきそうだった。

「千陽、抑制剤を、枕のところに置いておいたから。熱がぶり返したら使いなさい」

「駿さ…、こっち来てよ」

「ダメだ。抑制剤がほとんど効かなくなってきた。お前に乱暴をしたくない…」

「駿さん…、俺のこと、嫌いに、なったの…」

「そんなわけあるか! …お前を傷つけたくないだけだ」

ドア越しの駿さんの声が遠くて、胸が締め付けられる。
こんな思い、したくなかった。

「駿さん…こんなの、嫌だよ…」

裏返った声は、きっとドアの向こうには届いていない。

「駿さん…好き…、好きなのに…!!」

こんなに欲しいのに!!

 
千陽を寝室に閉じ込めて、疼く牙で唇を噛んだ。
鉄の味が口の中に広がる。
千陽を抱きしめたい。
暴きたい。
乱暴にでも、あの子を喰らい尽くしたい。
凶暴な獣を飼っているようだ。
ドアに鍵をかけて、開かないように。
自らの手で開けて、怯えるあの子の身体を喰い散らかさないように。

「…愛してる、千陽」

窓に爪を立て囁く。
きっとこの声は千陽には届けない。
あの子が欲しい。
ダメだ、あの子を守りたい。
あの子を喰らい尽くしたい。
あの子を愛して、甘やかしたい。

「千陽…、」

熱く燃えるような熱にうなされながら、その場に座り込んだ。
あの子を、あの子を大切にしたい。
この本能を初めて憎いと思った。
千陽、愛してる。


「しゅんさ…」

何日経ったのかわからない。
ベッドから落ちるように降りて、ドアまでたどり着く。
爪を立てて、駿さんを呼んだ。
ヒートの熱が辛く、身体を焼いていく。
疼く。
疼くのに。
駿さんがいない。
どうして、どうして、こんなに、疼いて、寂しいのに、埋めてくれないの。

「しゅんさん…寂しいよぉ…、ひとりにしないで…」

ドアを力の入らない手で叩く。
しゅんさん、しゅんさん。
欲しい、欲しいよ、抱きしめてよ。

「ひとりに、しないで…!」

ドアを精一杯の力で叩いた。
ずりずりと身体の力が抜けて、床に崩れ落ちる。
駿さん、と声にならない声で呼べば、ドアがゆっくりと開いた。

「しゅんさ…」

身体を起こすと、息を荒くし唇の端から血を流す駿さんがいた。
伸びて来た大きな手に、そっと手を伸ばす。
抱きしめられて、初めてこんなに熱くなっていることに気づいた。

「千陽」

グッと抱きしめられて、やっと心が満たされた。

「…ん、あ…、ふ、う…」

「千陽、愛してる…」

「ん、ん…、駿さ…、」

「ああ、千陽、愛してる」

ぎゅうぎゅうに抱きしめてもらって、バニラの香りを嗅いだ。
ホッと落ち着いていく身体。
駿さんの優しい香りが、気持ちよくて涙がこぼれた。

「愛してるよ」

優しい声が、耳をくすぐって、心地よかった。
駿さんの体温が、匂いが、声が。
心が、満たされた。
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