二錠の錠剤
頬を軽く叩かれて目を覚ました。
ん、と目を覚まして、目元を擦りながら、欠伸をする。
身体の熱はだいぶ引いていた。


「…あ、」

ゆっくりと身体を起こせば、背中を支えられる。
背中を支える大きなてのひらが暖かくて、びくりと身体が震えた。
センセーを見上げると、センセーは眉を寄せている。


「おい、飲め」

低い声に促されて、口の中に入れられた二錠の錠剤。
すぐに口元にミネラルウォーターを口元に差し出された。
温くなった水を痛む喉に眉を寄せながら飲み込んだ。


「…な、に、これ」

「アフターピルと抑制剤」

「…なんで?」

「ガキができたら困るだろ」

低い声はどこか怒ったようにそう言う。
身体を起こしてから数分経ってから、意識がはっきりとして来た。
それから、かあっと頬が熱くなる。
身体の奥からどろりと何かが溢れ出して来た。


「あっ、やっ」

慌ててそこに手を伸ばして触れると、指先に白濁が付いている。
恥ずかしさが身体を包み、急いで遠くに放り投げられていたYシャツを羽織って身体を隠した。
センセーはしっかり全て身につけていて、自分だけ裸のままだった。
服を着せてくれてもいいのに。
そう思いながらセンセーを睨めば、センセーが苦笑した。


「悪いな、薬飲ませることが先だと思って」

「自分は服着てるくせに」

拗ねたようにそう伝えれば、センセーがポンポンと頭を撫でた。
身体拭くのが先だろう、そう言って、先生はスラックスのポケットからハンカチを取り出す。
それから、ほら、横になれと言われ、首を傾げながら横向きで寝転がった。


「怒るなよ」

そう言われて首をかしげると、センセーは俺の腕を片手でまとめて顔の前でまとめた。
それから、神経質そうな指先が、ぐちゃぐちゃに濡れたそこに触れて入り込んでくる。


「ァンッ」

思わず甘えた声が漏れて、かあっと頬が熱くなる。
センセーが息を詰めるような声が聞こえてなおさら恥ずかしくなった。
中をグチャグチャと音を立てながら、かき回されて身体がビクビクと震える。


「や、だぁ…ッ、やめ、て、せんせ、ひッ、あッ、あっ」

「掻き出さなないと、困るのお前だろ。この後もそこから漏らしながら過ごすつもりかよ」

「で、もっ」

「ほら、いきめ」

「やだって…」

「こら、いい子にしろ」

パンっと軽くお尻を叩かれ、今までにないくらいの恥ずかしさがこみ上げる。
センセーを睨みつければ、欲に濡れた瞳と目があった。
その瞳に身体が動かなくなり、視線を逸らす。
センセーに顔の前でまとめられた手を見つめた。


「も、ていこ、しないから、腕はなして」

「…」

「おねが、い、せんせぇ」

「…、抵抗するなよ」

「ん、うん…ッ」

ぎゅっと両手を握って口元で荒い息を誤魔化すように噛む。
気づいたセンセーがこら、ともう一度お尻を叩くから、やめてと悲鳴をあげた。
センセーがちょっと笑う声が聞こえる。


「へんたいッ…」

小さな声で呟けば、センセーの指先が気持ちいいと思ったところをぐりっと押してくる。
悲鳴のような喘ぎを漏らしてしまい、口元を押さえた。


「まだ、終わらないの…ッ」

「もう終わる」

「…ん…、んんっ」

「よし、終わりだ」

最後にハンカチで拭かれて、荒い息を零した。


「センセー、どんだけ、出したの」

落ち着きを取り戻してきて、センセーを見てヘラリと笑う。
センセーは苦笑しながら、手を差し出してきた。
その手を掴み起こしてもらう。
ハンカチの綺麗な部分で何度も腹に吐き出した物を拭い去った。
脱がしてくれたYシャツを着てからのそのそと腰を上げようとする。
しかし、何度も打ち付けられた腰が痛み、腰を上げられなかった。


「っ」

その様子を見て、センセーがスラックスを履かせてくれる。
捕まってゆっくり腰を上げろ、と言われセンセーの肩につかまりながら腰を上げた。
少し痛んだけれど、すぐにスラックスを履かせてくれたおかげで腰をおろせる。
その優しい仕草も、言葉は乱暴だけれど、労ってくれる指先が、とても気持ちよくて胸が締め付けられる。


「…血が出てるな」

そう言って触れられた傷跡に、痛みを感じて顔を歪める。
センセーが噛んだそこには噛み跡があるようだ。
些細なふれあいで燻る熱を感じて、センセーの手を取った。
センセーもそのことに気づいたのか、すぐに顔を逸らす。


「…、センセー、噛んでもよかったのに」

「こどもが生意気言ってんじゃねえよ」

「だって、俺、」

そこから先は何も言えなかった。
それでも、センセーが運命であることは変わらない。
センセーは運命だ。
あたりを満たすバニラの香りがそうだと告げていた。


「俺もお前もヒートに入ってる。今はある程度吐き出したし、互いに特効の抑制剤を飲んでいるから落ち着いたが、すぐにまた飲み込まれる。…俺の家に、くるか」

それはとても甘い誘いだった。
逆らえない。
逆らってはいけない。
そう思うと自然と頷いていた。


「センセー」

「なんだよ」

「悪いセンセーだね」

「もともとだろ」

そう言って小さく笑ったセンセーは立てない俺を抱き上げた。
それから体育館のギャラリーを降りて、裏口から駐車場に出る。
高級そうな車のドアを開けて、俺を助手席に乗せた。
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