洗濯物
「ただいま」

「おかえり」

駿さんが呟くのを聞いて、思わず返事をした。
その言葉に一瞬目を見開いた駿さんに、キスをされる。
深くなっていくキスに、クラクラした。
駿さんの吐息が唇をくすぐって、腰が痺れる。

「ん…、駿さ…、立って、らんない…」

「…悪い」

腰を支えてもらって、駿さんの首に背伸びして腕を回した。
もう一度軽く唇を交わす。
ぎゅっと抱きしめられて、そのまま抱き上げられた。

「千陽、おかえり」

「…ん、…ただいま、駿さん」

「ああ、おかえり」

駿さんの額にキスをして、額を合わせて笑った。

ソファーに腰を下ろして、千陽とキスを交わす。
軽いキスが続いて、時折優しく頭を撫でた。
気持ち良さそうに蕩けた瞳を見つめていると、たまらなくなる。

「ん…、ん、駿さん、」

「どうした…」

「好きすぎて、くるし…」

「ああ、もう…お前は、本当に…」

可愛いことをいう千陽の頬を両手で包み、唇を食んだ。
それから何度も柔らかな髪を撫でて、小さく笑えば千陽も同じように笑った。

「千陽、昼まだだろ…。何食べたい」

「ん…、なんでも、いいよ」

「そうめんか」

「またぁ?」

嬉しそうに笑う千陽は、痩せた手を伸ばしてきて俺の頬に触れる。
その手が愛おしくて、手を重ねた。
千陽が驚いたようにまた笑う。
その頬にキスをして、立ち上がった。

「昼飯作ってくるから、テレビでも見てな」

「え、手伝うよ」

「病院行って疲れただろ」

「駿さんこそ、仕事してきて疲れてるのに」

「眠そうだ」

「…んんん、バレてたか」

「はい、おやすみ」

「んー…おやすみ」

千陽をソファーに横にしてから、額に口付けた。
それからキッチンで昼飯を作り始めた。
結局昼飯はそうめんになりそうだ。
お湯を沸かしながら、起きてからの千陽を想像した。
きっとまたそうめんって呆れたように笑うのだろう。
それでも、嬉しそうに食べるその姿にホッとする。
千陽は、些細なことでも喜んで、嬉しそうに笑みを浮かべた。
それが嬉しくて、たまらないと思う。

「まあ、そうめんばかり食べさせる俺も大概だがな…」

小さく笑うと、お湯が沸いたことに気づいた。

昼飯を作り終えてから千陽を起こす。
起きた千陽は眠そうに目を擦った。
その手を止めてから、目元に口付ける。

「おはよう」

「ん…おはよ、いい匂いがする」

「そうめん」

「やっぱりそうめん」

手を引かれて起き上がった千陽は、想像した通り呆れたように笑った。
それからテーブルについて、手を合わせた千陽はどこか嬉しそうだ。

「千陽、うまいか」

「うまいよ。駿さんそうめんしか作んないけど、どれも味が違うからうまい」

「そうか、それは良かった」

「でもたまに違うの食べたいから、夕飯は俺が作るよ」

「おう、任せた」

「任されたー」

ウキウキとする千陽に小さく笑う。
目が合えば、また嬉しそうに笑みを浮かべた。
子どもらしいその笑みを愛おしいと思う。
昼飯を終えてから、ふたりで洗濯物を干す。
乾いた服はカゴに入れて、洗濯物を干していく。
秋空の中ゆらゆらと揺れる洗濯物を眺めた。
少し調子の外れた鼻歌が聞こえる。

「お前歌下手だなあ」

「うるさいー」

「あ、洗濯物終わったな」

「そうね。畳まないと」

「ああ」

室内に戻ってから、カーペットに腰を下ろす。
ふたりで一緒に洗濯物をたたんでいく。
千陽が丁寧にたたんでいく服を見て、自分のものをみた。
少し大雑把に畳まれたそれに、千陽が笑う。

「下手くそ」

「畳まれてたらいいんだよ」

「シワになっちゃうよ」

「アイロンかければいいだろ」

「ま、そうだけどさー。駿さん変なところで大雑把だよね」

そう行って、目を伏せ笑う千陽に息を止める。
綺麗なその仕草が愛らしい。
千陽の頬を撫でて、唇を重ねた。

「きょう、キスばっかしてくるね」

「好きだろ」

「ンンン…! 好きだけどぉ…好きだけどさぁ」

「好きだけど?」

んっと口をつぐんだ千陽の頭を撫でてから、また洗濯物をたたむ。
ふたりぶんの洗濯物は、そんなに多くはない。
たたみ終えてからカゴに入れて、カーペットに横たわる。
千陽も同じように寝転がって腕の中に入ってきた。
ぎゅっとしがみついてきた千陽の背中を撫でて、鼓動を感じる。
千陽のリズムは、心地よい。
胸に染み込んでてきて、それからつられてひとつになる。

「千陽、今週くるヒートが終わったら、お前の両親に会いに行こうか」

「…うん」

「大丈夫そうか」

「うん」

「何があっても、そばにいる」

「うん、駿さん、大丈夫」

こくりと頷いた千陽の背中を撫でた。
頼りないその細い背中を守る。
そう決めて、仕事を辞めた。
それから覚悟を持って家を継いだ。
これから始める生活のため、この子の過去を拭い去りたい。そう強く思う。
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