メロンソーダ
「ちー、何食べる? 俺は診察前だから、飲み物だけ頼もうかと思うんだけど」

「俺も」

メロンソーダのフロートと、レモンティーを注文して窓際の席に腰をかける。
喫煙席から一番遠いところを選んだ。
窓の外は寒そうに秋風が吹いている。

「涼太って何歳」

「俺? 19歳」

「ふーん。大学とかいってるの」

「まさか、ヒートがきつくていけないよ。行けるのなんて特別なΩぐらいでしょ」

そう言って笑った涼太に、千陽も笑う。
確かに大学に進学できるΩなんて、数少ないΩの中でもほんの少数になる。
そう思えば、目の前の涼太も同じような境遇なのではないかと思えた。

「ちーは嶺緒くんと同い年でしょ」

「まあね。俺のことどのくらい聞いてるの」

「…嶺緒くんの好きな人でΩで番がいることぐらいだよ」

「そっか」

涼太は辛いことを言っているはずなのに、優しく微笑んでいる。
ごめん、と小さく呟いて俯くと、頼んでいた飲み物が運ばれて来た。

「嶺緒とはよくあってるのか」

「毎日あってるよ。嶺緒くん、Ωに優しいから。俺のこと強く拒否できないんだ。俺がそこにつけこんでる」

「今…、どうしてる?」

「君のことを探してるよ、君が無事なのか確認したいって」

微笑んだ涼太がレモンティーを口に運んだ。
メロンソーダーのアイスを崩して沈める。
泡立ったアイスの端をスプーンですくって口に入れる。
ドロドロに甘い味。
俺を探す嶺緒を、涼太はどんな思いで見つめているのだろうか。

「嶺緒くんに君とあったことを伝えてもいいかな。安心させたいから」

「…俺が、どうして、嶺緒の前からいなくなったのか知ってるか」

「少しだけ。俺も同じような状況だったから知っているよ。俺の場合は、相手が嶺緒くんだったのだけど」

「それで、嶺緒と出会ったのか」

「そう…。それなら、俺が嶺緒に居場所を知られるわけにはいかないって、わかるよな」

窓の外を見る。
紅葉はもう、散り始めていた。
駿さんに会いたくなる。
もう過去のことを思い出したくはない。

「…嶺緒くん、後悔してたんだ。君のことを両親に伝えてしまったこと、救えなかったこと。…彼も君のことで深く傷ついて、立ち上がれてないんだ」

「それでも、俺は今の幸せを大切にしたい。もうあの人を、傷つけないって決めたから」

メロンソーダーを飲む。
アイスは溶けかけていて、甘さがましていた。
スタジャンのポケットに入れていた携帯が震える。
取り出してメッセージを見れば、駿さんが迎えに来たという文が見えた。
それから食堂に向かっているからそこで落ち合おうと続けられる。

「千陽」

不意に大好きな声が聞こえて来て振り返った。
そこには駿さんがいて、訝しげに俺の前に座る涼太を見ている。

「あ、駿さん、こいつ、お…」

「涼太、お前ここ、かかりつけだったか?」

「え?」

「駿ちゃん」

振り返った涼太も驚いたように目を見開いていた。

「え…えええ、いとこなの」

「そう。まさか、駿ちゃんが番ができて製薬会社継いだって聞いたけれど…、それがちーだったとは」

「…俺の方が衝撃なんだけど…」

「俺も驚いたわ。涼太がここにかかってるなんて思わなかった。お前最近、αの家に嫁いだって聞いたけど」

「…嶺緒のとこだって。嶺緒のうち、うちの子会社だけどそれなりにでかいから」

俺の言葉に駿さんが目を見開く。
偶然もあるものだな、と、駿さんは呟いた。
その言葉に頷きながら時計を見る。

「涼太、そろそろ診察じゃない?」

「あ…、そうだった。また、同じ周期なら会えるかもしれないね」

「…そうだな。また」

そう言って手を振って、立ち上がった。
駿さんの手が俺の手を撫でてから、指を絡めてくる。
その温もりに微笑みながら、駿さんと一緒に食堂を後にした。
食堂から手を振る時に浮かべた笑顔。
涼太の笑った顔がどこか知っているようだったのは、駿さんに似ていたからだろう。

「千陽、何笑ってるの」

「んー。なんか、涼太が笑った顔がどっか知ってるような気がするなって思ったから」

「似てるか」

「少しね。駿さん仕事、大丈夫なの」

「ああ、午前中でやらなければいけない仕事は終わらせて来たからな」

「そっか」

握った手をブランコのように振りながら、駿さんを見上げる。
幸せだなって、胸が苦しくなった。
この人が好きで、好きで、仕方がないんだって。
それは運命だから、それでも確かに俺の心はこのひとのものだってことが痛いくらいわかるんだ。

「駿さん、早く帰ろ」

「どこか行かなくていいのか」

「なんで?」

「なんでって…、お前なら、どこか行きたいって言うと思ったんだが」

訝しげに俺を見る駿さんに笑う。
確かに、こんなに爽やかな秋空を見上げると、どこかに行きたくなると思った。
それでも今すぐ家に帰ってこの爽やかな秋空を無視してでも、駿さんと甘い時間を過ごしたい。

「んー、今は家で駿さんとイチャイチャしたい気分です」

「そうか」

「照れてるの」

「照れてない」

「耳真っ赤」

「うるさい。早く帰るぞ」

ぐいっと腕を引かれて、腕がぶつかる。
小さく笑いながら、駿さんと駐車場へ向かった。
車に乗ると、いつもの音楽がかかる。
運転している駿さんをちらりと盗み見した。
綺麗な肌が時折陽射しで輝く。
切れ長の目が眩しさに細まった。
prev | next

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -