スクランブルエッグ
目を覚ますと、隣に駿さんがいた。
駿さんの方が先に目を覚ましたようで、ベッドヘッドに身体を預けている。
のそのそと身体を起こしてから、駿さんからおはようのキスをもらった。
これだけで胸がいっぱいになるくらい、幸せだと思う。

「よく眠れたか」

「うん、ぐっすり。駿さんは」

「俺もだよ」

子猫の頭を撫でるように手を伸ばしてきた駿さんの手に甘える。
気持ちの良い感覚に小さく笑いながら、駿さんの胸に顔を埋めた。

「今日は何するの、駿さん、仕事?」

「ああ、今日は仕事。だから、家でいい子にしてろよ」

「うん。…朝ごはん作るよ」

「お前料理できたのか」

「料理っていうか、うーん、それなりの朝食?」

そう言いながらベッドから降りて、一緒にキッチンに向かった。
駿さんはまだどこか眠たそうで、時折あくびをしている。

「本当によく寝れた?」

「ん? どうして」

「眠そう」

「…何日間か寝てなかったからな。それより、腹減った」

キッチンに立って手を洗う。
駿さんは俺を後ろから抱きしめて、頭に顎を乗せてきた。
またあくびをひとつしながら、俺のつむじにキスをする。

「料理できないんですけど」

「千陽温くてさ」

「んー、まあね。子ども体温ですから?」

「そうだな…。何作るんだ」

「卵とベーコンとパンがあったから、スクランブルエッグとベーコン炒めて、パン焼くだけー。あとはサラダ」

「お、朝食って感じ」

駿さんの言葉に、頷いてからベーコンを炒めてトーストを準備する。
それから更にサラダと一緒に乗せてから、卵を混ぜてとろけるチーズを入れた。
フライパンにバターを敷いて、卵を焼いていく。
ベーコンの香ばしい香りと、トーストの焼ける音にお腹がなった。

「手際がいいな。いい奥さんになりそう」

「駿さんの?」

「もちろん」

もう一度つむじにキスされて思わず笑う。
危ないよ、と言うと、ごめんと返事が返ってきた。
お皿に盛り付けて、ふたりで運ぶ。
駿さんがコーヒーを入れてくれて、いい香りがした。
幸せな朝の香りに笑っていると、駿さんも同じように笑ってくれる。
出会った時よりもよく笑ってくれるようになった気がした。
いただきますの挨拶をしてから、朝食を食べる。
思ったよりも美味しくできて、嬉しかった。

「うまい」

「そっか、よかった」

「和食も作れるか」

「それなりに。でもあれだよ、家庭科の授業で習ったのしか作れないよ」

「それでいいよ」

「そっかそっか」

ニヤニヤと笑ってしまい、駿さんに笑われる。
美味しいと言って、食べてくれるのが嬉しい。
家庭科の授業は、生きるために必要だったから真面目に受けていた。
それでも過去の自分に感謝した。

「ごちそうさまでした」

「ん、駿さん、時間大丈夫?」

「ああ、9時についてればいいから」

「そっか、着替えてこないと」

「ああ」

めんどくさそうに動き出した駿さんが着替えにクローゼットに向かう。
その様子を見送ってから、お皿を洗った。
ひとりで住んでいた時は、面倒で外食ばかりしていた。
けれど、駿さんにこうやって食べてもらって喜んでくれる姿を見たら、嬉しくてまた作りたいと思う。
食器を洗い終えて、タオルで拭いてから棚に戻す。
冷蔵庫の中身を確認してから、うんと背伸びをした。
リビングのソファーに腰を下ろしてテレビをつける。
スーツを着て歯磨きをしながらやってきた駿さんが隣に腰をかけた。

「今日一日何してる?」

「んー、どうしよっかな、悩み中」

「…あまり、家から出てもらいたくない」

「出るつもりもないよ。…でも何してよ」

「帰りにゲームでも買ってくるから。…それまでは本とかDVDとか、好きなように過ごしてな」

「うん」

ポンポンと頭を撫でてから、駿さんは口をゆすぎに行った。
今日は、何して過ごそう。
ニュースを眺めていても、何も面白くない。
洗面所へ行って、駿さんの背中に抱きつく。
スーツ姿はやっぱりかっこいいと思った。

「…どうした」

「んー、補充」

「補充か」

「ん」

「千陽、洗濯物と、掃除しておいて」

「ん! それなら退屈しないな」

そう言って笑うと、駿さんも同じように笑った。
歯磨きと準備を終えた駿さんは、コートを着る。
靴を履いてから、玄関まで見送りに来た俺を見つめた。

「千陽」

優しく名前を呼ばれて、駿さんを見上げれば軽く唇が触れた。

「…行ってらっしゃい」

「ああ、行って来ます。早く帰るようにするから」

頬を撫でられて、もう一度キスをくれる。
もう一回なんてされたら寂しくなるのに。
そう思いながらも、駿さんの優しい手にうっとりしてしまう。

「じゃあ、行ってくるな」

「ん、行ってらっしゃい」

ひらひらと手を振って、駿さんが出て行く。
手を振り返してから、ベランダに急ぐ。
数分してから駿さんのかっこいい車が走って行くのを見送ってから、背伸びをした。

「よし、やるかー」

洗濯物と、掃除。
それからお昼は適当に作って食べて、今日は晴れてるから布団も干そう。
なんだか花嫁修行のようで、くすぐったい。
それでも駿さんのためなら…、自分のためではないそれは少し楽しいと思う。
駿さんの寝巻きにしているTシャツとスウェットと自分のものを持ってくる。
洗濯機の中に他の洗い物と一緒に入れてから、洗濯を始めた。
鼻歌を歌いながら洗濯機を回してから、風呂場の掃除をする。
ピカピカになるまで磨いていると、楽しくて仕方なかった。

「めっちゃ充実してる…やばい」

綺麗になった浴槽にシャワーをかけてから、うんと背伸びをする。
お風呂何時にセットすればいいんだろう、と考えながら、浴室から出た。
洗濯はあと40分くらいかかる。
少し一休みしようと、リビングへ行った。
ソファーに腰を下ろすと、ウトウトし始めて横たわる。

「久しぶりに動いたから疲れたかも」

目を瞑るとそのまま、意識が遠くなって行く。
少しだけ…そうつぶやいて、眠りについた。
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