金内先生の家にお邪魔して、リビングに通された。
写真が飾ってあって、金内先生と番の人が並んで笑っている。
それがとても幸せそうで、微笑ましい。

「ご迷惑おかけしました」

金内先生に頭を下げてから小さく笑う。
隣に座った駿さんが背中を撫でてくれた。

「…思い出したんだね、辛かったでしょう」

「ん…、辛かったけど、それより駿さんのこと、忘れていたことの方が辛かったから…」

ちらりと駿さんを見た。
駿さんは俺が見ていることに気づけば、優しく微笑んでから俺の頭を撫でる。
その優しい手つきが気持ちよい。

「…俺、妊娠してない? 身体、大丈夫?」

小さな声で金内先生に問いかける。
金内先生はこくりと頷いて笑ってくれた。
その笑みにほっとする。

「幸い、妊娠もしていなかったし、身体も大丈夫。…ただ、心にかかった負荷が強いから、今後何か身体に不調があったり、眠れないことがあったらすぐに教えてね。…我慢はしちゃダメだよ」

「…うん」

金内先生の言葉に頷いてから駿さんを見る。
駿さんはやっぱり少しだけ苦しそうな表情をしていた。
俺の身体のことで、俺自身だけじゃなくて、駿さんも深く傷ついた。
そのことに気づいたから、もう簡単に自分の身体を明け渡したりしない。
駿さんの手をぎゅっと握る。
指を絡めて、笑いかけた。

「駿さん」

名前を呼んで、視線を合わせる。
ハッとしたように、俺を見た駿さんに笑った。

「金内先生、今日はありがと」

「ううん、君の元気な姿を見れてよかったよ。次は僕の番と一緒に遊んでね」

「うん。よろしくね」

「邪魔したな、金内」

「じゃあ、またね」

玄関で挨拶を交わしてから、金内先生の家を出た。
車に乗り込んでシートベルトをつけていると、駿さんに頭を撫でられる。
どうしたのだろうかと視線を向ければ、駿さんは笑みを浮かべた。

「いや、何にもない。…よし、買い物行くか」

「変な駿さん」

車が動き出して、聞き慣れた音楽が流れた。
鼻歌を口ずさむ。
窓の外を流れる景色。
駿さんのバニラの香り。
何度も聞いて覚えて好きになった曲。

「もう少しでつくぞ」

「んー、思ったより近いね」

「そうだな」

駐車場に入り込んで行く。
車を停めているとドキドキと胸が高鳴り始めた。

「久々の買い物だー」

「そうなのか」

「うん。ずっと引きこもってたから。しかも駿さんと一緒とか最高」

そう言って停まった車から降りる。
駿さんもすぐに降りて来て、手を取られた。
驚いていると、指が絡まって引き寄せられる。
腕が触れ合って、駿さんを見上げた。

「どしたの、いいの?」

「教師じゃないし、一応恋人だろ。恋人じゃなくて、婚約者か」

カッと頬が熱くなって、駿さんから視線を離した。
少し離れると駿さんに引き寄せられる。
離れるのを許さない、というように、腕が触れ合った。

「恥ずか、しい…」

「何が?」

「婚約者、とか」

「…お前、可愛いな」

ポンポン、と空いてる手で髪を撫でられる。
されるがままになっていると、駿さんに笑われた。
店内に入って服を選ぶ。
真剣に眺めていると、すぐそばにいた駿さんに肩を叩かれた。
これは、と見せられたのはシンプルな白いセーター。
何着か持って来たのか、駿さんに次々に服を当てられた。

「まあこんなもんか」

腕に引っ掛けた駿さんが納得したように頷いた。

「え、」

「お前どれが欲しいの」

「え、いや、…駿さんまさかそれ全部買う気?」

「ああ。当たり前だろ?」

そう言って笑った駿さんはそのまま俺が手に持っている服も腕にかけた。
他にもまだ買うつもりなのか、服を眺めている。

「駿さ、そんな、たくさん」

「ほら、他にいるのはないか」

「な、ない」

「レジ行くぞー。あと何買おうか。靴も何足かいるな。あとは今日の夕飯か」

「…いいの? そんないっぱい買って。それに、この店高いし」

「当たり前だろ。俺の妻になるやつに安い服着させられるか」

「…うう

赤くなっているはずの頬に手を当てて、駿さんから目を離す。
目を離せば駿さんはすぐにレジに向かった。
待ってと追いかけて隣に立つ。
とんでもない金額に、クラクラしながら駿さんをにらんだ。

「そういう顔より可愛い顔していただきたいのですが」

「…あ、ありがと」

「…そういう顔してな。お前は笑っているのが一番可愛いんだから」

「駿さん今日変」

「変で結構。あ、カードで」

「かしこまりました」

買い物が済んで、紙袋を駿さんと半分こしてもつ。
このあと靴屋でも同じやり取りをすることになるとは思わなかった。
買い物を終えて、車に乗り込む。
結局夕飯はレストランで食べた。
実家に帰ってからずっとちゃんと食べれていなかったせいか、運ばれてきた半分の料理も食べれなくて駿さんが残りを食べてくれた。
それが申し訳なくて、落ち込んでしまう。

「量が少ないものを選べばよかったな」

「…んーん、ごめんなさい、食べれなくて」

「気にするなよ。俺は足りなかったから、お前のを半分もらえてちょうどよかった」

「それならいいんだけど…」

俯いていると、不意に肩を引かれた。
軽く抱き寄せられて、顔を上げる。
駿さんの唇が触れてきた。

「ん…」

軽く触れて、離れる。今度は額に触れてから離れていった。
駿さんが優しく笑ってくれる。

「…お前が俺のところに戻って着て嬉しくて、はしゃぎすぎたな。もう少し、落ち着いてからにするべきだった」

「そんなことない、楽しかった」

「それならいい。いつまでもそんな顔するなよ」

ポンポンと頭を撫でられた。
それからシートベルトをつけるように言われ、頷きながらつける。
車が動き出して、音楽が鳴り始めた。
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