体育館のギャラリーで
センセーと会った一昨日の昼と同じくらい暑い。
体育館のギャラリーの小窓から入る風は熱気を孕んでいて、とても涼しいとは言えない。
窓の外を眺めながら、煙草を吸おうと授業をサボっていた。
ここ最近、身体がじわじわと熱を怯えている。
身体の熱はだるさに変わり、風邪か、と思っていた。
そんなだるい身体でクソみたいな授業なんて受けたいと思わなかった。
それに、誰にもそんなこと求めれられていない。

ここに来て気づいた。
この身体の熱は風邪とは違う。
あの日と同じ場所に来て、熱い熱を孕んだ風に当たってわかったのだ。
もしかしたら、本能的に、αのいる教室から逃げたかったのかもしれない。
時々感じる視線を思い出して、頭を振った。

ぼーっとする頭の中で考えながら、人差し指と中指で煙草を挟んで咥える。
その指先は細かく震えていた。
震える指でライターで火をつける。
咥えた煙草に火をつけてから、深く息を吸い込んだ。
ココアのような甘い味が口の中に広がり、少しだけ落ち着いた。
腰を下ろして、柵に背中を預けた。


「クッソ、なんだよ…、この熱」

身体が熱い。
あのクソみたいに暑かったあの時、センセーと会ってから、じわじわと身体が熱を持ち始めていた。
それは気づかないくらいの小さな火種だったのが徐々に大きくなり、燃え上がって火柱のようになっている。
今はもうその熱に溺れるように、口から吐息が溢れていた。
手の震えが大きくなり始め、落としてしまいそうな煙草を慌てて消す。


「っは、あっ、だ、め、」

溢れる声はまるで幼馴染と見た淫らなDVDの中のΩのようで、嫌になる。
中学生の時の性別検査で明かされた自分の性をまざまざと感じさせられた。
じわじわと熱を持った身体を紛らわせるためにきた体育館のギャラリーの隅っこ。
誰もこないそこでいつも煙草を吸っていた。今日もそのつもりでここにきたのに。
センセーと会った一昨日のことを思い出したら、バニラの香りを感じた。
そのバニラの匂いに煽られるように、身体が熱を帯びる。
その熱はじわじわと下腹部を熱くし、濡れるはずのないそこがジュワリと音を立てた。
座っているのも辛くなり、ギャラリーの床に横たわる。



「…っ、あっ」

Yシャツが肌を撫でるのが辛い。
今までに感じたことのない熱が、熱に、侵されるようだった。
神経質な指先を思い出して、ビュクリと白濁を吐き出すのを感じる。


「あ…、あ、あぁ…」

甘い声がやけに耳をくすぐり、背中を汗が伝った。
心臓が大きな音を立てる。
怖い。
初めて感じた子どもを孕むだけのメスとしての自分が、嫌になるくらい大きくなっていく。
足音が聞こえてきて、誰かがそばに来ていることに気がついた。
その足音は、ギャラリーを踏む音で、自分の身体を守らなければいけないと遠い意識の中で感じる。
ふと感じたバニラの香りが強くなっている気がして、足音の主の正体に気づいた。


「や、だ…」

こんな痴態、見られたくない。
こんなメスのように男を、αを求める姿を、見られたくない。
…見て欲しい、暴いて欲しい、その神経質な指先で撫でて、触って、かき混ぜて。


「せんせぇ…っ」

足音が近くで止まった。
バニラの香りが強く香って、涙で潤んだ視界を必死に凝らして見上げる。


「あっ、あっ」

媚びるような求めるような甘い声が漏れて、身体が大きく震えた。
ぎゅっと丸くなってその大きな快楽に溺れないように努めれば、唸るような声が聞こえる。


「せんせ、せんせぇ…っ、み、ないで、あっ、んっ、いや、いやだっ」

ひとりで触ってもいないのに絶頂していく身体が恥ずかしい。
歪む視界の中で、センセーだけが鮮やかに鮮明に見えた。
センセーの耐えるような顔に、理性が散り散りに焼かれる。
本能が、身体の奥のΩの性が、センセーを全身で求めた。


「……」

センセーが何か俺に話しかけてくれたのを感じたけれど、何を言われているのかわからなかった。
この熱に溺れた身体が、じわじわと受け入れるために溢れた蜜に下着が濡れていくことだけを感じている。
この淫らな身体を叱って欲しい。
もう理性はどこにもない。
あるのは本能だけ、この人が欲しい。
腕を伸ばして、センセーの濃紺色のスラックスに手を伸ばした。


「後悔するなよ」

耳元で聞こえた低い声に身体が震えた。
覆いかぶさったセンセーの熱い吐息が耳元にかかる。
それだけでこの浅ましい身体は熱を弾けさせた。


「せんせ、めちゃくちゃに、して…っ」

「クソッ」

センセーのヤケクソな声が聞こえて、目を瞑った。
身体に落ちる熱が気持ちよくて気持ちよくて、溺れてしまいそうだった。
横たわったまま愛でられ、そのままひっくり返される。
制服を脱がされて、熱気にさらされた身体が汗をこぼれた。
センセーが身体に触れるだけで、淫らに濡れていく。
露わになった首筋に、汗が滴るのを鮮明に感じた。
首筋にセンセーが口づける。
それから何か言葉をしているけど、何もわからなかった。
口からは意味のない音がこぼれた。


「あ、あ…、ん、あっ…ひぅっ、」

噛んで欲しい、
噛んで欲しい、
噛んで、
噛んで、
センセーのものにして欲しい。
センセーのものになりたい。
この疼いてしょうがない場所を、センセーで埋めて欲しい。
愛されたい、この神経質な指で、愛して、センセー。


「せんせぇ、の、ものに、して…、うずくの、たりないの、満たして、うめて、」

掠れて声にならない声でそう呟けば、濡れたそこに熱い塊が入り込んでくる。
満たされていく快感に身体が震えて逃げようとした。
覆い被さられて、腕を掴まれて頭を床に押し付けられる。


「アッ、あっ、あぅうっ」

初めて男を受け入れる身体がもっと、もっとと欲しがって腰が揺れる。
圧迫感に襲われて、呻くような声をあげれば、もっと押し込まれて来た。


「あっ、い、あ…っ」

「…っ」

「あ、せんせぇっ、せんせぇっつ」

「クソッ」

泣きわめくような声を零しながらセンセーを求めれば、うめき声が聞こえた。
肩に走った痛みと奥に押し込まれる激しい快楽に、唾液が零れ落ちる。
あまりにも激しい快楽に、意識が遠のいて行った。


「せんせぇ」

最後にこぼれ落ちた言葉に、低い声が何か呟いたのが音として聞こえた。
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