診察室
嶺緒に連れられて、Ω科の待合室で座っていた。
心配そうな嶺緒の視線が鬱陶しくて、足を踏む。
病院に着いてからこめかみが痛んで仕方がなかった。

「…鹿瀬千陽さーん」

名前を呼ばれて、立ち上がる。
同じように立ち上がった嶺緒に来んなと伝えてから、診察室へ向かった。

「千陽くん、久しぶり」

目の前に座った白髪の男に声をかけられて、首をかしげる。
ここに来た覚えはなかった。
それでもズキズキと痛むこめかみが、何かを忘れていることを伝えて来るようだ。

「…俺、あんたとあったことあるっけ」

「…千陽くん、今日は誰と一緒に来たんだい」

「幼馴染」

「呼んで来てもらえるかな。千陽くんは待合室で待っててね」

「わかった」

立ち上がって、診察室を出る。
嶺緒の元へ向かえば、すぐに出て来た。
呼んでる、と一言伝え、待合室で腰を下ろす。
そういえば、携帯、どこやったっけ。
嶺緒が診察室へ向かって行くのを見送ってから、椅子に腰を下ろした。
あの医者にあったことはないはず。
だけど、どこか知っている気がするのはなぜだろうか。


「君が千陽くんの幼馴染かな」

診察室に入って来た大柄な男の子。
αのようで、独特な雰囲気をまとっている。
千陽くんとは系統の違う男の子だが、誠実そうな子だ。
座って、と声をかけると腰を下ろして、まっすぐにこちらを見つめて来る。

「…千陽は、ここに来たことが、あるんですか」

「ああ、千陽くんは私の患者さんだよ。彼の番と共にここに来てくれた」

「千陽の番…」

「君は、千陽くんをどうしてここに連れて来たんだい」

「千陽が、記憶が…なくなって」

目の前に座っている彼の目が泳ぐ。
長めの金色の前髪が彼の綺麗な黄色い瞳を隠していた。
千陽くんのことを聞くのと一緒に、彼の精神状態を見ていかなければいけない。

「…あ、千陽、家の言いなりになってて、でも、それから、逃げれなくて、千陽は、弱いから、Ωだから、俺が守らないと、千陽、幸せになれなくて」

「うん、落ち着いて。千陽くんのことはちゃんと聞くからね。それより君の名前を教えてくれるかな」

「な、長峰嶺緒」

「嶺緒くんね」

メモ帳に彼の言葉を軽くメモを残しながら、様子を確認する。
名前を聞いて、一息つかせたところで、少し落ち着いたようだ。

駿くんから千陽くんがいなくなったことを聞いたのは、三日ほど前だった。
いなくなったのは前回病院に来てから一週間近く後。
千陽くんの姿を最後に診察してから一ヶ月は経っていた。
おそらく三回目のヒートを経験しているはずだが、千陽くんを連れて来たのは彼。
その間のことを聞かなければいけない。
最後にあった千陽くんと、さっき診察室にきた千陽くんの姿は全く違うものだった。
もともと細かった身体がさらに細くなり、目元にはひどいくまができていた。

「…詳しく話してくれるかい?」

「お、俺、鹿瀬の家に、言わないでここに連れてきた。…千陽が、死んでしまいそうだったから」

「大丈夫だよ。ここに来たことは医者としての誇りをかけて決して漏らさない。ここは安全だから」

「…千陽を、ここに呼んで、そばにいないと」

「千陽くんのそばに看護師をつけておくからね。彬くん、頼んでいいかな」

「はい」

千陽くんの元へ看護師を向かわせてから、彼と向き合う。
パソコンからメール画面を呼び出して、駿くんへ一言送った。
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