フロート
「…うーん、成長はしてはいるんだけれど…、何かストレスのかかることとかあったかな」

「…ん、まあ、それなりに」

「駿くん、ちゃんとケアしてあげないと」

からかうように言う金内先生の言葉に、ちらりとセンセーを見た。
センセーもそうだな、と小さく笑っている。
隣に座ったセンセーは俺の視線に気づいて、頭を撫でてくれた。

「…金内せんせ、成長してないとどうなるの」

「Ωの男性の場合、一回の性行で子どもができることはないけれど…。子宮が未熟なまま妊娠すると、身体が耐えきれずに母体もお腹の中の赤ちゃんも危険な状態になる。だから、ヒートが来たΩは病院に来て、子宮の状態を観察するんだよ」

そう言われて、思わずお腹に触れた。
金内先生の話を聞いて震え上がる。
センセーがすぐに俺の腰に腕を回し、引き寄せてくれた。
その温もりに、少しだけホッとする。

「…次のヒートで、番になる」

「ピルを飲むのを忘れずに、ね」

「ああ」

センセーの言葉にギュウッと胸が締め付けられた。
もうすぐ、センセーの番になれるんだ。
そう思うと嬉しい。

「あとは大丈夫かな?」

「うん、多分」

「千陽、疲れただろう。俺は少し金内と話があるから、飲み物でも買ってこい」

「ん! 駿さん何のむ?」

「コーヒー。買ったら待合室で待ってろ」

「りょー。金内せんせ、ありがと」

診察室を出て行き、看護師に挨拶をした。
近くの自販機へ向かって行く。

千陽が出て行ったことを確認してから、金内と向き合う。
ヒート前の千陽は体調が優れていない。
このままの状態でヒートを迎えて大丈夫なのだろうか、と思っていた。

「で、どうしたのかな、駿くん」

「ああ。…千陽が、この間、他のαに迫られてヒートを誘発させられたんだ。そのせいか、頭痛や吐き気を感じているんだが…。そういうことはよくあるのか」

「ヒート前に身体がだるくなる症状は一般的だけれど。頭痛や吐き気になると、ヒートを恐れている時に出る拒絶反応になるね」

金内の言葉に、手を握りしめた。
千陽が前に、言っていた自分の価値の話を思い出す。
あの子は、俺に噛まれることを望んでいる。
しかし、それ以前に幼い頃から教え込まれていた自分の価値や、この間のαに迫られたことから、ヒートに対する恐怖を無自覚な中で抱えていたのだろうか。

「千陽くん、君の前にいるときは落ち着いていた?」

「ああ、頭痛も吐き気も一緒に休んでいたら治りはしたが…」

「ヒートに入る前から千陽くんと過ごして、安心させてあげて。精神的なストレスから来るものが多いから。検査からは異常は見られていないから、大丈夫だよ」

「わかった。悪かったな、予約もしてないのに…」

「いや、構わないよ。Ω科は受診される人が少ないから」

「助かった。また何か会ったときは頼むな」

金内と挨拶を交わしてから、診察室を出た。
待合室を見ると、千陽がひとりで待っている。
退屈そうに飲み物を飲んでいる千陽に愛おしさを感じた。
待合室のドアを開け、名前を呼ぶ。
振り返った千陽は嬉しそうに眩しいくらいの笑みを浮かべていた。
「おいで」と、千陽を呼べば、急いでくる。
頭を撫でて、優しく髪を梳いた。
千陽の柔らかな髪は、指で触ると心地よい。

「ん、くすぐったい、何」

「いやー。いい子で待ってたなって思って」

「ふふー。えらいっしょ。ちょっとお腹空いたかも」

「具合は悪くないのか」

「センセーと一緒にいたら、だいぶ良くなった」

ピースしてみせる千陽に笑う。
そろそろ行くかと声をかけて、待合室を出た。
千陽の手を取って握る。
暖かい子ども体温が心地よかった。

「千陽」

「ん?」

「何食べたい?」

「甘ったるいパフェ」

「飯じゃないのか」

頷いた千陽に笑いながら、車に乗り込む。
病院の近くの喫茶店へ向かっていると、鼻歌が聞こえてきた。
隣の千陽へ視線へ向けると、窓の外を眺めている。
千陽はいつも車に乗ると窓の外を眺めていた。

喫茶店に入って席につく。
千陽がメニューを眺めてから、これにする、と言った。
それはチョコレートとバナナのパフェとコーラフロート。
自分のメニューを決めて、店員を呼んだ。
注文を終えてから、千陽の様子を眺める。

「お前、パフェ全部たべれるのか」

「どーだろ」

「お前ね、食べられるかちゃんと考えて…」

「残ったら、センセーが食べてくれるんでしょ」

そう言って甘えるように笑う千陽。
病院に行く前よりもだいぶ元気になっている。

「そうだったな」

千陽の髪を撫でてから、出されたお冷に手をつけた。
すぐにテーブルの上にコーヒーとコーラフロートが置かれる。
いただきます、と挨拶をしてから、コーヒーを飲んだ。

「ん、うまー」

「一口」

「ん」

スプーンですくって差し出してきた千陽に礼を言ってから味わう。
口の中で溶けるバニラアイスとスプーンに少し入ったコーラが弾けた。
うまいっしょ、と笑う千陽のくるくる変わる表情に、小さく笑った。
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