夕食
旅館に戻ってからセンセーと一緒に、部屋付きの温泉の脱衣所でびしょ濡れの服を脱いだ。
カゴに入れてから浴室に入り、洗い場で身体を洗う。
後ろにきたセンセーがシャワーで髪を流してくれた。

「キシキシするな」

「ちょっと痛い」

「我慢しろ」

髪を洗われていると、うとうとし始めてしまう。
程よい力加減が心地よい。
身体を洗い終えてから、センセーと場所を交代して、次は洗ってあげる。
意外と柔らかい手触りに笑いながら、髪を洗った。

「んーっ」

温泉に入って、大きな窓の外を眺めた。
夕日は沈みきって夜空に変わっている。
海の上にはいくつもの光があって、窓を指さきでなぞった。
首輪は風呂に入るときは外している。
つけていることに慣れたそれがないと、首元が寂しかった。
なんども触っていると、センセーの神経質な指先が伸びてくる。
くすぐるように撫でられて、小さく笑う。

「くすぐったい」

「日焼けになってるな」

「でもすぐに色落ちるよ」

「そうか」

センセーの答えが少しだけ寂しそうだった。
もう一度窓の外を眺めながら、センセーの肩に寄りかかる。
湯気が頬にあたり心地よい。

「ふあーっ、眠くなってきた」

「だいぶはしゃいでたからな」

「楽しかった」

「それなら良かった」

頬が火照ってきて、センセーが先に立ち上がる。
手を取られ、一緒に立ち上がり脱衣所に出た。
タオルで身体を包まれ、そのまま何もかもやってもらっていると船を漕がざるを得なくなる。
センセーの手はとても暖かくて眠りを誘ってくる。
最後にドライヤーで髪を乾かされて、つむじにキスをされた。

「ほら、夕飯の準備してもらっている間に少し寝てたらどうだ」

「ん…」

先に身支度が終わり、心地よい畳の部屋へ向かう。
木張りの床が冷えていて心地よい。
柔らかな一人がけの椅子に腰を下ろして、膝を抱えた。
そのまま膝に額を預けて目を瞑る。
よっぽど疲れたみたいだ。
目をつむれば、そのまま意識が遠のいた。

 鼻をくすぐる美味しい香りに目を覚ました。
うんっと身体を伸ばして、室内に目を向ければセンセーが手招きしている。
すぐにそばに行けば、テーブルに夕飯が用意されていることに気づく。
海鮮に、肉に、豪華な夕食が並んでいて、目を見開いた。

「いつのまに」

旅館の人が鍋に火をつけてから退室する。
眠たい目を少しこすってからセンセーの真似をしていただきますをした。
新鮮な刺身とか、センセーと一緒にいると、美味しいものをたくさん食べれる。

「刺身とか久しぶりに食べた。うまーい」

「それは良かった」

「おなかいっぱい食べて、ゆっくり寝て、明日朝、散歩しよ」

「散歩?」

「健康的に」

そう言って笑えば、センセーも同じように笑った。
鍋の蓋をあけるとちょうどいいくらいに火が通っている。

夕食を終えてから、後片付けをしてもらった。
お腹がいっぱいになって、畳の上に寝転がる。

「腹一杯だわ」

「結構食ってたな」

「ん、うまかった」

センセーは座椅子に座ったまま、煙草を吸う。
ゆらゆらと揺れる紫煙を眺めた。
ポンポンと頭を撫でられて、小さく笑う。

「千陽、寝るなら布団行け」

「ん…、まだ寝たくない」

「じゃあ起きろ」

「うーん」

身体を起こしながら、センセーの背中に額をグリグリと押し当てる。
ぎゅっと背中に抱きついて、あくびをした。
センセーの背中から落ち着いた心臓の音が聞こえる。
日本酒を片手に煙草を吸っているセンセーからは大人の香りがした。

「酒うまい?」

「お前、煙草は吸う癖に、酒は飲まねえの」

「んー、美味しくないじゃん」

「ガキだな」

「うっせ」

センセーの背中に頭突きする。
うっと呻いたセンセーに笑いながら、もう一度あくびをした。
静かな室内で、落ち着いた鼓動が耳に心地よい。

「…よし、寝るか」

日本酒を飲み終えたセンセーに抱えられる。
そのまま敷布団まで運ばれて、降ろされた。
布団の中に入り込んで、うとうとしているとセンセーは歯磨きをしに行く。
ひとりになった部屋で、目を閉じた。
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