吐息
温泉にゆっくり浸かって、センセーとキスを交わし合って気づいたら眠っていた。

セックス、するのかな。

そう思っていたけれど、意識を飛ばすように眠りこけてしまった。
抗えない眠気が強いが、これも成長期だからなのだろうか。
少し湧き上がる不安に早く目が覚めてしまい、日が昇り明るくなり始める様子を出窓に腰をかけて眺めていた。
センセーに昨日、思いを告げられた。
嬉しかった。
次のヒートに噛んでもらえる。
先の約束に、心が踊る。
もう、これで、きっと大丈夫。
たとえ引き離されたとしても、この思い出だけで生きていける。
そう思える。
センセーが最近、愛おしそうに触れてくれる口元のホクロを指先で触れた。
出窓で膝を抱え、窓の外を眺める。
赤い太陽がゆっくりと昇って行く。
まだ暑くはなく、涼しい室内。
センセーに着付けてもらった浴衣。
何もかも胸の中にしまいこんで、大切に、忘れないようにする。
ぎゅっと抱えた膝に額を押し当てて声を抑えて泣いた。

太陽が昇って、気持ちが落ち着いてから、センセーが起きてくる前に顔を洗った。
歯磨きを済ませて、冷たいお茶を入れる。
敷布団のしいた部屋に入り、センセーの肩を揺らした。

「駿さん、朝だよ」

「…ん、…もう少しいいだろ」

腕の中に引き込まれて笑う。
センセーの胸にすり寄ってから、もう一度そこから抜け出した。

「駿さん、午前中に海行った方がいいって言ったの、あんただろ」

肩を揺らして、センセーの高い鼻にキスをした。
それから、いつもは軽く左に流しまとめている前髪かきあげて、露わになった額にもキスをひとつ。
笑っていれば、センセーがめんどくさそうに身体を起こした。

「着替えて、ご飯食べに行こ。それから午前中に海行って、それから…」

センセーの髪を整えながら話せば、同じように浴衣を着たセンセーの手が頬に触れた。
それから洗い流して、跡が残らないように冷やした目元に触れる。
きっと、センセーにはバレている。
泣いていたことも、俺が考えていることも。
一番、俺を見透かしてくれる人が、センセーだから。

「…泣いていたのか」

「ん、泣いてないよ。寝てばっかいたから、目が腫れぼったくて。ほら、せんせ、早く。海入るの、楽しみにしてんだからさ」

「千陽」

咎めるように名前を呼ばれて、センセーを見つめる。
おねがい、それ以上聞かないで。
そう伝えるように。
センセーの大きな手のひらが頬に触れて、引き寄せられる。
唇を重ねて、その温もりをもっと、と求めるようにセンセーの胸に手を当てた。
なんども、何度も触れ合っては離れて、もう一度触れ合う。

「ん、ふ…、ん」

「千陽」

背中にセンセーの腕が周り、強く抱きしめられる。
薄い浴衣越しの体温が熱くて、目頭も一緒に熱くなった。
熱い手のひらが背中を這う。
その熱が気持ちよくて、センセーにすり寄った。

「千陽、…ちはる」

「ん、しゅんさ…」

「千陽、」

離れて、近づいて、重なって、敷布団の上に倒れ込んで、足を絡めた。
お互いの身体に触れ合って、何度も息を交わし合う。
荒れた息の中、互いの体温だけ求めた。

「千陽」

愛おしそうに呼ばれて、身体が震える。
湿った吐息と肌が重なって、目を瞑る。
センセーの、茶色い瞳は欲に濡れていた。

「千陽、好きだ」

キュッと目を細めた視界の中で、センセーは優しく微笑んだ。
敷布団の中で、熱い息を交わして、また唇が触れ合った。
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