病院
ベッドから降りて、顔を洗おうと寝室を出る。
洗面所で顔を洗ってから、キッチンへ向かった。
キッチンからコーヒーのいい香りがする。
センセーはまだ仕事に行ってなかったのか。
そう思いながら急ぎ足でキッチンのドアを開けた。

「なんだ、また泣いていたのか」

キッチンでコーヒーを飲んでいたセンセーは、俺の真っ赤になった顔を見て笑った。
おいで、と低く優しい声で俺を呼ぶ。
その声に応えるようにそばに行けば、神経質そうな指先が頬を撫でた。

「千陽、お前、次のヒートはいつかわかるか」

「へ…? 知らない…」

「だろうな。ヒートが来たら普通のΩはΩ専用の医者にかかるんだ。お前はそのことを教えてもらっていないだろうから、そうだと思った」

「そ、そーなの…?」

「ああ。ヒートの周期を知るためと、お前にあう抑制剤やピルを見つけるためにも、医者に行くぞ」

「で、でも、そんなことしたら絶対家にバレる。バレたら、俺…」

「千陽。大丈夫だから」

センセーに抱きしめられて、ホッとする。
センセーがそう言うなら、多分大丈夫なんだと思った。
着替えてこいと言われて、急いで制服に着替える。
ミネラルウォーターを渡されて、飲んだ。

センセーの車に乗り込んで、どこかわからない病院へ向かう。
ドキドキする。
物心ついてから病院に行ったのはバース検査が最後だ。
それからは身体はある程度丈夫だったから。

「…そういえば、駿さん、学校はいいんだ?」

「夏休み分の有給もらった」

「そんなに有給ってあるの」

「溜めてた」

「ふーん…。よくわかんない」

「お前はそれでいいよ」

そう言われて、窓の外を眺める。
センセーの車から眺める窓の外の景色はなんとなく楽しい。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。
発情期が来てから、弱くなった上に、女々しくなってしまったようだ。
車は大きい病院に停まり、センセーに促されて車から降りる。

「駿さん」

「どうした?」

「んん、なんでも、ない」

一緒に歩いて病院へ向かった。
受付に立つセンセーの後ろにたち、水色のYシャツの背中を握る。
受付の職員と話した後、センセーはそのまま案内の通りにあるく。
それを追いかけて行けば、Ω科の文字が見えた。ドアを開けて中にはいる。
待合室には誰もいなかった。
すぐに名前を呼ばれて、センセーを見れば行って来いと言われる。

「駿さんも来て」

「ひとりで行けないのか」

「ん、来て」

「…わかったよ」

センセーに背中を押されて、診察室に入る。
中にいたのは優しそうな白髪の若い医者だった。
そのそばには男の看護師もいる。

「鹿瀬千陽くんだね」

「…っす」

「どうぞ、座ってね。それに、駿くんも久しぶり」

「おう、久しぶりだな。金内かなうち」

仲良さそうに話すセンセーを見て驚く。
仲のいい人いるんだ、そう思いながら、訝しげに医者を見つめた。

「このひと、αなのに、Ωの医者してるの…」

小さな声で尋ねると、センセーが笑った。
金内先生も同じように笑っていて、あっけにとられる。
ひどいことを言った自覚はあるが、それを言われた本人も周りもひどいことと思わなかったようだ。

「珍しいでしょう? 私はαの中でも一番自制心がきくんだ。それに番以外のΩの発情に左右されない特殊体質なんだ」

「よくわからないけど、すごいんだ?」

「そうだね、恵まれていると思うよ」

他のαに緊張していたが、優しい話し方や雰囲気で落ち着いてくる。
センセーにも看護師が椅子を用意してくれて、センセーは隣に腰を下ろした。

「それじゃあ診察しようか」

「お、お願いします」

先生は看護師に何か指示を出してから、俺と向き合う。
カルテが置かれていて、これから何を聞かれるのかドキドキし始めた。

「千陽くんって呼んでいいかな」

「ん、べつに、大丈夫」

「そ、じゃあ千陽くん、発情期が来たのはいつ頃?」

いつだったか思い出していると、センセーが答えてくれる。
それから、緊張しないように背中を撫でてくれた。

「そっか、その前に何か体調が変わったこととかあった?」

「覚えてない。でもずっとだるい感じがした。センセーと会ってから特に」

「それは駿くんが多分、運命の番だからだね」

そう言って優しく笑ってくれた金内先生に、少しだけ泣きそうになった。
他人から認められたような気がして、嬉しい。

「千陽くん、あとは薬の適性を調べる血液検査とヒートを調べる内診をさせてもらうけれど、大丈夫」

「な、ないしん…?」

「次のヒートの日を調べるのと、周期を調べるために必要なんだ。指と中を見る機械を入れて、子宮の育ち具合を調べるよ」

「…ゆ、指、入れるの」

「怖いかもしれないけれど、大丈夫だよ。駿くんにもついてもらおうか」

「ん、ん、それなら、まだ…」

センセーを見れば、怖がりだな、と笑われた。
その笑みは優しくてちょっとホッとする。
隣の部屋に行ってね、と促されて、看護師に案内された。
センセーも付いて来てくれる。
下着脱いで準備してください、と優しく言われた。
タオルを腰に巻いてからズボンと下着を脱ぐ。
一緒に中にいるセンセーは俺の頭を撫でてから、額にキスをくれた。

「千陽」

「ん、何、センセ」

「終わったら、お前の好きなもの食べに行くか」

「…なんでもいい?」

「ああ」

「んじゃ、ケーキ食べたい。甘ったるいやつ」

「わかったよ」

ポンポンと頭を撫でられてから、金内先生に準備できたらベッドに横になってね、と言われた。
ベッドに横になると、看護師が腰から下にカーテンを引く。
それから、腰に巻いたタオルがかけられた。
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