黒薔薇の庭で
柔らかな風が吹いて、黒薔薇を揺らす。
寝室の開け放たれた窓を離れて、寝室を出た。
ゆっくりと歩みを進めて、大きな扉をくぐる。
広い庭に出て、まっすぐと歩いた。
幼い声が聞こえてきて、小さく微笑んだ。
「母上ー!!」
「今行くよー」
幼いわが子の声にこたえて、真昼は走り出した。
優しい風が背中を押してくれたような気がする。
いつの間にか花畑になっていた狭間の森。
深夜と日夜の待つ泉に向かう。
「母上、遅いっ」
「夜明、母上になんて口をきくんだ」
「だって、母上に早く見てもらいたいんだもん。日夜兄さまだって母上を待ってただろ!」
「日夜も夜明も、そんなに目を吊り上げないで」
クスクスと微笑む真昼を見て、日夜と夜明が笑う。
あれから、日夜とあとふたりの子を授かった。
「日夜、深夜さんはどこに行ったの?」
「母上は父上ばかりですね。父上は夕焼と一緒に花を摘みに行きました」
「ここで待ってろっておっしゃってました」
ありがとう、と微笑んで、腰を下ろす。
深夜に良く似てきた日夜の髪を撫でて、膝に頭をのせてきた夜明の尖った耳をもう片方の手で撫でた。
「あっ」
夜明の声を聞いて、真昼は後ろを振り返る。
黒い髪がふわふわと舞っているのが見えて微笑んだ。
「真昼」
「深夜さんっ」
真昼の頬に唇が降りてきて、日夜が夜明の目を隠した。
深夜の腕の中にいる末っ子の夕焼の目は深夜の大きな手のひらが隠している。
優しい口付けは唇に触れて、真昼は微笑んだ。
「夕焼、ほら。母上に渡しなさい」
「ははうえ、ははうえっ」
「夕焼、おかえりなさい。あっ」
真昼の腕に小さな花がたくさん束ねた花束が置かれた。
白い花弁がふわりと舞う。
「ありがと…」
「いや。…日夜」
「はい、父上」
日夜が微笑んで、夕焼と夜明の手を握った。
あっちで遊びに行こうか、と低くなった声が囁く。
「真昼」
「深夜さん」
そっと深夜の胸に手を触れさせ、見上げる。
深夜の金色の瞳が真昼をとらえた。
「ようやく穏やかになった」
「そうですね」
クスクスと微笑んだ真昼にそっと口付ける。
深夜の優しいキスに身をゆだねた。
「真昼、愛してる。私の永遠の伴侶」
「はい…。あなたのために、永遠を誓います」
足首に纏った足枷と、あの黒薔薇の庭に誓って。
綺麗な声が、そう呟いた。
黒薔薇の庭で end
prev | next
back