日夜
暗闇に白い塔が覆われた。
深夜の力で灯った光だけが、真昼の頼りだ。
さらさらと風が頬を撫でる。


「そろそろ…だね」

指先でそっと黒と白の混ざった表面を撫でた。
唇を優しい歌が震えさせる。
親友から貰った大切な歌。
かつかつと卵が叩かれて、真昼は微笑んだ。
扉が鳴る音が聞こえ、振り返る。


「お仕事、終わったんですか?」

「ああ。こちらにいると思ってきた」

黒薔薇の花弁がひらひらと舞いこんできた。
まるで踊るようにひらひら、くるくると落ちていく。


「夜は冷えると言っただろう?」

深夜の少しだけ咎めるような声が聞こえて、真昼は小さく笑った。
大きい黒い布で体を包まれる。
後ろから深夜の大きな体に抱きしめられた。
卵を温めるために被せていた手のひら。
その上に、深夜の大きな手のひらがかぶさった。


「もう少しで生まれる。日夜が喜んでいる」

深夜がそう耳元で囁いたのを聞いて、身を捩った。
優しく微笑んだ深夜の表情を見て、真昼は手のひらのぬくもりを感じる。
カチカチとつつくような音が聞こえて、真昼はあっと声を漏らした。


「手を開いてごらん」

大きな手に促されて、手を開いた。
ひびが入った卵を見つめていると、卵のかけらが落ちる。


「あっ…」

思わず漏れた声に、口元を押さえた。
卵はすぐに割れて、黒いくちばしが見える。
頭の上に乗った卵のかけらを深夜がそっと指先でつまみ、脇に置いた。


「し…、しんやさ…」

「ああ」

「ひよ…、日夜…!」

黒い羽毛と、真っ白な木のような角。
真昼の手のひらにおさまるくらいの命が小さな音を立てた。


「ぴ…、ぴ、ぴ」

可愛らしい声に、真昼の頬を冷たい雫が伝う。
深夜のほうをそっと振り返ると、微笑んでくれた。


「もう少ししたら、私たちと同じ形になる」

深夜の指先が涙を掬い、頬に温かい唇が触れる。
涙を掬った指先は日夜の角に触れて、優しく撫でた。
そっと真昼も細い指先を伸ばす。
ふわふわの日夜の背中に触れて微笑んだ。


「ぴいっ」

「もっと撫でて、真昼の指が気持ちがよいみたいだ」

深夜が優しく微笑む。
擽るように、背中を撫でると、日夜が笑う様にぴいっと声を上げた。

愛しの end
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