おやすみなさい
静かな深い夜の最中。
ベッドの真ん中に置かれたカゴの中にある、両手を器にした大きさの卵を真昼は眺めていた。
白と黒の混ざった卵は時折かたかたと揺れる。

もう少し、もう少しだよ。

そう言われているような気がして、真昼は小さく微笑んだ。
布をたくさん入れたかごの中から卵を抱える。
温かなタオルでくるみ、抱きしめた。
壊れないように、温かくなるように優しく抱きしめる。


「早く生まれてね」

真昼の声にこたえるように、卵は小さく揺れた。
扉が開いた音がして、真昼はそちらに振り返る。
漆黒の髪を纏った深夜が真昼を見て目を見開いた。


「まだ起きていたのだな」

「あ…、目が、覚めてしまって」

「そうか」

深夜の大きな手のひらが伸びてきて、髪を撫でた。
さらさらと音を立て、髪が零れ落ちる。
優しい笑みを浮かべ、真昼の隣に腰をおろした。


「日夜が喜んでいる」

「わかるのですか?」

「あぁ。父子は意思が通ずる。日夜はいつもお前を求めて泣いている」

深夜の言葉に真昼は小さく笑った。
いつも卵の傍にいるのに。
そう思うと、愛おしく思い、真昼は指先で卵を撫でる。
優しく卵を持ち上げて、柔らかな唇を触れさせ、チュッと音を立てた。


「おそらくだが、この子は角を持った黒い小鳥として生まれてくるだろう」

「小鳥…?」

「ああ。最初は私の血が大きく出るだろうから。その後は徐々に私たちのような形に近づいていく」

「深夜さんもそうだったのですか?」

「ああ。私も小鳥だった」

ふふ、と笑う真昼に、深夜は細い腰を抱いた。
長い指先で真昼の膝に戻された卵をくすぐる。
穏やかな、優しい時間に、真昼はゆっくりと瞬きをした。


「将来は、私に良く似た子になるだろう」

「…なら、とっても格好よくなるのですね」

頬を赤く染めた真昼に、深夜はムスリとした。
それから小さく笑って、真昼の肩に手を回す。


「日夜が笑っている。ぴいぴいと良く泣く子だ」

真昼の優しい表情に深夜はそっと肩を撫でた。
柔らかな視線に瞼を下ろす。
深夜の唇が、真昼の唇に触れた。


「そろそろ眠ろう。布で包んで、真ん中に置きなさい」

「はい…。大丈夫ですか? つぶれない…?」

「この卵はとても堅い。この城の屋上から落としても割れないよ」

「…安心しました」

驚きながらも微笑んだ真昼に、深夜はそっと卵を布で包んだ。
それから横になり、真ん中に卵を下ろす。
真昼もすぐに深夜の隣に寝転がった。


「おやすみ。真昼、日夜」

「おやすみなさい…、深夜さん。日夜…」
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