卵
緊迫した、魔王の寝室。
大きくて柔らかなベッドの上で真昼は荒い息を吐いていた。
腹部の重たい痛みが、ずん、ずん、と間隔をおいて真昼を襲う。
苦しい息を吐き出す様に、唸り声を洩らした。
「う…っん〜…っ」
「真昼様、あと少しです、あと少しじゃっ!」
ばば様の興奮したような声と、フミネがあわただしく室内を駆けまわる音が耳に入る。
すぐそばに立っている深夜が心配そうに真昼を見つめていた。
握った手に爪を立てて、痛みをこらえる。
「んん…っ、あァっ」
こらえきれないくらいの痛みに大きな声をあげて、体をよじった。
頭の上にあげた手を深夜がしっかりと掴み握り締める。
大きな手にすがるように身体をベッドに押さえつけた。
「今ですっ、タオルを」
ばば様の大きな声にフミネがタオルを両手に駆け寄った。
「…はァっ、は…っ、はぁ、はあ」
「真昼…、よくやった」
荒い息を整えるように呼吸する真昼に、深夜はそっと額の汗をぬぐった。
それから露わになった額に口付けて、何度も汗を拭く。
フミネとばば様が生まれたそれを大事に抱えて微笑んだ。
「だいぶ小さいが、力が強いのがわかる」
深夜の言葉に真昼はぼんやりと目を開いた。
卵を撫でた深夜がその卵を青い液体の中に入れるのが見える。
卵へ手を伸ばして、真昼は声を漏らした。
「産湯じゃ。このお湯で卵を清め、成長を促すのじゃ」
ばば様の言葉に真昼は安心して、ベッドに深く沈んだ。
息は整ってきたが、体が重たい。
深夜が卵の元から真昼のもとへ来て、そっと頭を撫でた。
「真昼様も体を清めましょう。王、お願いしますね」
「ああ。真昼」
深夜に抱え上がられて、真昼はそっと目を瞑った。
ゆらゆらと真昼の大好きな揺れを感じて、深夜の首に腕を回す。
まだ、日夜が生まれたことが実感できない。
けれど腹部に残る小さな痛みで、少しは感じることができた。
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