昇っていく泡
「真昼…」

不意に、名前が呼ばれたように感じて顔を上げる。
覚えのある声だった。
いつも夢で会うあのひとの声に。
向こう岸に、影が見える。
影は振り返って、歩き出していた。


「…まって…っ、待って!!」

大きな声で叫んだけれど、届かないようで、その人物は去って行った。
落胆のため息をついたところで、湖の光が強くなる。
真っ白い光に包まれ、目を瞑ると、背中に大きな衝撃を感じた。


「ああっ!」

体が傾くのを感じているうちに、水の冷たさを感じた。




湖の中に、体が沈んで行く。
ゆっくりと沈んでいく体を裏返すと、きらきらと上の方が光っているのが見えた。
足掻いて、水面に行こうとは感じない。

むしろ、この温かさが心地良いような気さえした。

まるで、あの大きな腕の中にいるような。
心が温かく灯るのを感じる。
あの人のことを考える頭が止まらない。
落ちていく身体がこのまま、もっと深いところまで落ちてしまえばいいのに、そんな風にすら思ってしまう。


(今まで、ずっと、こんな感覚、感じたことなかった)


視線をずらすと、金髪が見えた。
少し長めの金髪の少年は苦しそうに足掻いている。
もう一度、上に視線をずらすと、ゆっくりと光が小さくなっていくのが見えた。
もうきっと元の世界に戻れないのだろう。
このまま、死んでしまう。


息が苦しくなっていく。
やっぱり、このまま、死んでしまうのだろうか。
そう考えているうちに、体から力が抜けて行って、沈んでいった。

消えかけていた光は、きらきらと小さな光を残して消えて行く。
残ったのは、真っ暗な水の中と、真昼の口から零れる気泡だけだった。

さよなら、僕の故郷 end
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