無礼講
傍に控えていたロウから杯を受け取り、深夜と真昼も飲み物を入れてもらった。
薄い赤色のそれは、婚姻の儀の時のみ飲める飲み物で、魔族達が色めき立っているのを感じる。
深夜は真昼の腰を抱いたまま、杯を宙に掲げた。
魔族が息をのむのを感じ、深夜が口角をあげる。
「今夜は無礼講だ。飲め! 歌え! 踊れ!」
深夜の低い声が礼拝堂に響き渡り、地面を揺らすような歓声がわきあがった。
たくさんの杯が掲げられて杯がぶつけられる音が広がる。
魔族達の興奮が伝わり、真昼も笑顔を零した。
「真昼、どうだ、この雰囲気は」
「すごいです、みんな、嬉しそうで、とても…、とても楽しい」
「私は婚姻はしないと公言していたから、みなが興奮するのも仕方がない」
深夜が微笑みかけてきて、真昼は顔を俯けた。
頬が熱くなっているのを感じる。
優しい微笑みには愛が溢れていて、真昼はほう、と息をもらした。
「真昼も飲みなさい」
杯に入れられた薄赤色の液体を呷る。
甘い液体がのどの中に流れてきて、目を丸くした。
「おいしい…」
「そうだろう? 飲みたかったら、私に言いなさい」
そう言いながら、深夜も杯を呷った。
男らしいのど元が上下して、真昼は深夜を見つめる。
深夜の黒髪が礼拝堂の光を浴びて輝いていた。
急に体が火照ってきて、立っていられなくなってきた。
杯を傍にあった台に下ろして、顔を手でパタパタと仰ぐ。
「ん…、」
「真昼?」
「あ、深夜さん…」
「部屋に戻ろうか、真昼、首に腕をまわして」
深夜に促されて真昼は体を彼に預けた。
ゆらゆらと心地よい揺れに目をつむる。
深夜の香りが鼻をくすぐり、深夜に体を摺り寄せた。
寝室に入り、黒薔薇の庭に出る。
夜風が頬を撫でて、真昼は顔をあげた。
「気持ちい…」
「体が火照っているな。今夜はこちらで眠ろう」
「はい…」
白い塔の扉を開け、真昼をベッドに下ろす。
白い光が浮かび上がって、部屋の中がぼんやりと照らされた。
深夜の手が真昼の顔を覆っていた黒い布を取り去る。
その仕草がまるで結婚式で新郎が新婦のヴェールを取るようだった。
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