大輪
夜の黒薔薇の庭は、花弁が白い光で包まれ舞い上がる。
そんな幻想的な庭を眺めるのが、真昼は好きだ。
「真昼、夜は冷える」
大きな肌触りのいい布で包まれる。
温かいその布にほっと息をつき、振り返った。
優しい表情をした深夜が立っていて、真昼は微笑んだ。
「温かい」
「中に入ろう」
深夜の大きくてたくましい腕に抱えられる。
抱えあげられたまま白い部屋に入った。
白い部屋から窓の外を眺める。
ふわふわと舞う黒薔薇の花弁を眺めた。
「あの、深夜さん」
「どうした」
「…この庭の手入れは、誰がしてるんですか? いつも綺麗に整えられていて、ずっと気になってたんです」
振り返った真昼に深夜は微笑む。
そんな真昼の肩を抱き、出窓に手をついた。
「手入れは私がしている」
「深夜さん、ひとりで?」
右手をかざし、すっと横にずらす。
そうすると、小粒の雨がポタポタと落ちてきた。
ある程度降った雨は深夜が手をもう一度ずらすと止んだ。
「ここは王しか入ることができないから」
「僕は…?」
こてんと首をかしげた真昼に深夜はそっと真昼の太ももに手を這わした。
内側に入っていく大きな手に、真昼はん、と甘い声を漏らす。
その声を聞きながら、深夜は真昼の夜着を捲った。
太ももの内側から際どい部分にかけて続く大輪の黒薔薇。
「いつ見ても、綺麗な大輪だ」
深夜の甘い声が耳をくすぐり、指先が太ももを擽る。
柔らかな部分をす、す、と指先が通り、真昼は小さく声を漏らした。
「この印は、私と真昼を繋ぐもの。この庭の大元だよ」
深夜は太ももから手を離し、きゅっと真昼を抱きしめる。
昔話を子供に読み聞かせるように優しい声で真昼をベッドへ誘った。
純白のベッドにふたりで腰を下ろす。
お互いの体に触れ合い、吐息を零した。
大きな手のひらは、真昼の太ももを撫でる。
それから、真昼の膨らんだ腹部に触れた。
「真昼」
そっと名前を呼ばれ、深夜を見上げる。
優しく微笑んだ深夜の唇が、真昼の頬に落ちた。
甘えるような穏やかな唇は、次に唇に落ちてくる。
小さな笑い声が漏れて、真昼は微笑んだ。
「この庭の話が聞きたいです…」
ずっと、前から気になっていたんです。
真昼がそう続けて、深夜はああ、と頷いた。
少し伸びた黒髪を指先で梳いて肩を抱く。
「いずれ、話そうと思っていた」
「お願いします」
頭を下げた真昼に微笑む。
それから、深夜はすっと指先を揺らして、カーテンを開いた。
「この庭は、初代の王の伴侶が死を受けた時にあつらえられた庭だ。伴侶の腰に咲いた伴侶の印を…。伴侶の愛した黒薔薇の庭を作った」
深夜の大きな手がぱっと開かれると、黒薔薇が一輪現れた。
その黒薔薇の花弁をそっと撫でる。
黒薔薇を横に振ると、もう一輪、深夜の手の中に現れた。
花弁が散り、純白のベッドの上に零れ落ちる。
「以来、王はこの庭を受け継ぎ、自らの伴侶のために手を加える」
「今まで、僕と出会うまでずっと…?」
真昼の頬を綺麗な雫が零れた。
優しい色をした瞳を見つめ、深夜は小さく笑う。
「お前の誕生を知った時、私はこの白い塔を加えた。この部屋を」
「白くて、とても綺麗な部屋…」
「お前を考えて建てた塔だ。…ここにいるお前を夢で見つけた時、とても嬉しかった」
深夜の大きな手が真昼の手を握った。
手の甲をそっと親指で撫でてから、指を絡めあう。
温かい手のひらに、真昼は嗚咽を漏らした。
「出会えて、良かった…。あなたを好きになって、良かった」
真昼の呟きに、深夜は返事をして小さな体を強く抱きしめた。
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