違う空
「す…! すごい!」

ゆっくりと馬は空へ空へあがっていく。
薄い白色になった空を真昼は眺めた。
異界にいた頃の、青い空に浮かぶ白い雲などは見えない。
ただただ、薄らと白色に見えるような空だ。
周りを見渡しても、下など見えない。


「真昼様、しっかりと王に体を預けて!」

後ろからフミネに声をかけられる。
その声に頷いてから、深夜の胸に体を預けた。
深夜の笑い声が聞こえ、真昼は頬を赤らめる。


「深夜さんっ、すごいです!」

興奮を押さえられない真昼は楽しそうな声を上げ、軽く深夜を見上げる。
深夜はまっすぐ前を向いていて、真昼の言葉に軽く笑みを浮かべた。


「真昼、楽しいそうだな」

「はいっ。でも、少し寒いかも…」

「私の外套に包まりなさい」

はためいていた深夜の外套を手繰り寄せ、真昼はその外套の中に包まる。
深夜の体は熱を持っているのか、服越しでもとても温かい。


「…温かい」

「この外套は母が、私にくれたものだ」

「そうなんですか?」

「ああ。母が作り、父が魔力を注いで、丈夫にしてくれたものだ。私の宝物のひとつだよ」

深夜は優しい表情で外套を見つめていた真昼に微笑んだ。
口をしっかりと閉じて、と告げ、深夜は真昼が頷いたのを見て、真昼を肩腕で抱きしめた。
それから、足で大きく2回馬の脇を叩く。
急に角度が変わり、冷たい風が頬を冷まし、ぐんぐんと地面に向かっていった。
後ろに続いていたフミネとロウも、同じように下へ向かう。
強い衝撃にきゅっと目を瞑り、深夜の腕を抱いた。


「真昼、もう大丈夫だ」

深夜の声に腕から力を抜く。
それから、深夜に抱かれたまま、馬を降りた。
降りた先は霧を纏っている。
奥の方にぼんやりとした黒い建物が建っているのがわかった。
歩いて行くうちに、黒い大きな建物の全体が見えてくる。
深夜の隣を歩いていると、歩幅を合わせて歩いてくれた。
真昼の体を気遣っていることが分かる。
そんな優しさに温かくなりながら、真昼は歩いた。


「ここもお城なんですね」

大きな建物を見上げ、真昼は呟く。
後ろに控えていたフミネが小さく笑いながら答えてくれた。


「この城は元は王宮だったんですよ」

「王がいるところが王宮になる。日夜が生まれ、王になったら、あの城は私たちだけになる」

「…そうなんですか。フミネさん達も…、いなくなっちゃうんですか?」

寂しそうに俯いた真昼に深夜は微笑んだ。
同じように後ろから優しい笑い声が聞こえてきて、真昼は顔を上げる。


「私は真昼様の世話係です。私の後任によい者がいますので、私はこのまま真昼様の世話係を続けさせていただく予定ですよ」

「本当…?」

「本当ですよ。ね? 王。それにロウも」

「…ああ、そのつもりだ。安心しなさい。…それより、早く中に入ろう。外は冷える」

ロウとフミネが前に出て、扉を開く。
深夜に手をひかれ、真昼は城内に入っていった。

深夜の城とは違って、洋風のような内装の城内。
あたりを見渡しながら歩いていると、奥の方が一番明るいことに気付く。
そこに深夜の両親がいるようだ。
こくりと息を飲み込み、深夜の手を握った。

一番奥の部屋。
深夜が片手で扉を開く。
眩しい光に、真昼は目を細めた。


「深夜…!」

少し低めの、綺麗な声が聞こえる。
隣にいた深夜は真昼の手を離し、飛び込んできたものを受け止めた。


「母上、お久しぶりです」

真昼が小さな時に読んだ絵本に出てきたドレスのようなものを纏った女性。
深夜のことを確認するように頬をぺたぺたと叩いた。


「あら、本物だわ」

深夜を見つめ、興奮したように話す。
そんな母に深夜は苦笑し、片手でもう一度真昼の手を取りなおした。
母を片手で抱き上げ、真昼の手を引きながら部屋の中を進む。
ある程度進んで、母を下ろした深夜は真昼の引き寄せた。


「父上が妬きますよ」

深夜が指さした方を真昼も見る。
ロウが狼になった時よりも何倍もの大きさの犬が、優雅に伏せの形をとっていた。
その腹部にだらりと体を預けた男性がいる。
はあ、とため息をつき、男性はふてくされたように唇を突き出した。
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