暗闇から少しだけ明るくなった空を見上げる。
温室のそばの広い空いた場所で、真昼はフミネとふたり、深夜を待っていた。


「真昼」

深夜の呼ばれて、声の方を振り向いた。
どしん、と大きな音がして、びくりと肩を震わせる。


「…ひっ」

振り返ったそこには、大きなドラゴンのようなものがいた。
とっさにフミネの後ろに隠れる。
そんな真昼に、深夜とフミネは笑い声を洩らした。


「大丈夫ですよ。王に一番懐いている馬ですから」

「…馬? 馬って、もっと可愛い…」

可愛い、という言葉に、フミネは首をかしげる。
真昼の視線の先にいるのは、絵本で見たドラゴンのようなものだ。
背中には大きくて堅そうな羽。
体は全体的にスリムだが、とてもしっかりとした体つき。
漆黒の体を撫で、深夜は微笑んだ。
傍に控えていたロウに、手綱を渡す。
それから、深夜は真昼のもとへ歩いてきた。


「よく似合っている。お前の肌の白さが際立つな」

漆黒の布で作った真昼の服は、綺麗な装飾品で彩られている。
真昼の体を冷やさないように、大きな布を纏っていた。
深夜はそんな真昼のこめかみに口付けた。
少し頬を赤らめた真昼を抱き上げ、深夜は再度頬に口付ける。


「これは優しい気性でな。私と一緒に乗ろう。それなら、安心だろう?」

「…はいっ」

掴まって、と促されて、深夜にしがみついた。
深夜が口笛を吹くと、馬が体を倒す。
バサ、と大きな音を立て、真昼の視界に、深い闇の色の羽が広がった。


「あ!」

トン、と、小さな揺れが来る。
深夜が馬の背に、ゆっくりと腰を下ろした。


「深夜さん、羽もあるんですね…!」

興奮したように真昼は深夜の羽に手を伸ばす。
指先に触れた、柔らかな羽毛に触れた。
手触りは、羊のような柔らかな心地だ。
想像した手触りと、実際の手触りが違って、真昼は思わず笑った。


「ずっと、羊さんだと思っていました」

「ひつじ?」

「羊、えっと、もふもふしてて、深夜さんみたいな角があって、とっても可愛いんです」

「か、可愛い?」

深夜の困った顔を見て、真昼は小さく笑う。
面白そうに後ろからロウとフミネの笑い声も聞こえてきて、深夜は咳払いをした。


「そろそろ、出よう。真昼、しっかり私の体によって…そう」

腰の位置をずらし、深夜の胸に体を預ける。
後ろから抱きこまれて、真昼の胸はドキリと鼓動を上げた。
深夜は真昼の体を抱え込み、安全を確認してから手綱を握る。
それから、馬の脇にあたる部分を、軽く蹴った。
ぶわりと風を巻き上げ、大きなうろこの羽が上下する。
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