私の優しい主
「真昼、明後日に我が父と母にお前を紹介したい」
真昼はスープを掬った後のスプーンをかちゃんと落とした。
急な深夜の申し出に、目を見開く。
床に落ちたスプーンを深夜が屈んで取り、新しいものと取り替えた。
「あ、ありがとうございます…。あの、日夜が、生まれてからでは、ないのですか?」
「ああ。父と母を喜ばせたい。もちろん、真昼の気持ち次第なのだがな」
「…大丈夫。僕も、深夜さんのお父さんとお母さんに会いたい…」
驚いたものの、心はきまっていたのか、真昼はふんわりと微笑んだ。
そんな真昼の表情を見て、フミネとロウは息を飲む。
「真昼様、ずいぶん綺麗になられましたね」
深夜とロウが同じように頷いて、真昼をまじまじと見る。
言われた本人はそうですか、と首をかしげた。
「…ああ、綺麗になった。明後日には真昼に最も似合う服を誂えよう」
深夜はそう言いながら、真昼の口元についたパンを指先でとった。
それをそのまま口元に運ぶ。
「…綺麗になられましても、真昼様は真昼様ですね」
フミネが笑うのを聞いて、真昼はかあと頬を薄桃色に染めた。
恥ずかしそうに俯いた真昼に、深夜達の笑い食卓が豊かになった。
「先代はどのような方なのですか?」
翌日のための服のために再度採寸を行っている最中、真昼はフミネに尋ねた。
フミネは布を選びながら真昼に視線を移す。
「とても愉快な方々ですよ。王と外見はどことなく似ているのですが、性格は全く似ておりません」
「愉快…」
深夜の姿を想像して、それを元に深夜の両親を想像したが、全く想像つかない。
首をかしげていると、フミネが微かに笑う声が聞こえた。
「奥方も先代と同じような方です。見た目はおしとやかな方なのに、中身はまったくですよ」
「それは、ちょっと会うのがこわいような…」
「ふふ、そうですね。…そういえば、奥方はたぶん、真昼様と同郷になられますよ」
フミネの言葉に、ああ、と相槌を打つ。
深夜の名前からして、真昼の国の言葉にあるから、そうだろうと予測していた。
「深夜さんの名前を聞いた時、そう思いました」
「仲良くなれたらいいですね」
フミネが微笑むのを見て、真昼はほっと息をつく。
翌日の両親との顔合わせは、少し緊張していたが、安心することができた。
「あの、深夜さんは?」
「今は婚約の儀の支度を終えて通常の執務をしていますよ」
「そうなんですか」
「真昼様はこれが似合うだろう、ってある程度注文をしてから仕事に取り掛かりましたよ」
フミネの言葉に、深夜が布を見て真剣に考えている姿を想像出来て、胸が温かくなる。
真昼はとても幸せそうな表情をした。
「儀は後6日後に行います」
「ありがとう、フミネさん。フミネさんが、僕のお世話係でよかったです」
頭を下げた真昼に、フミネは顔を上げるように伝えた。
頬を染めた真昼の頭を撫で、フミネは微笑む。
「私も、王の伴侶が…、いえ。私の主があなたでよかった」
フミネの言葉に真昼は涙を浮かべた。
嬉しそうな表情とは裏腹に零れた涙がきらきらと輝く。
「…明日が、楽しみです」
「そうですね」
真昼が微笑むのを見て、フミネは真昼の頬の涙をそっとぬぐった。
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