黒髪の人間
温かい腕の中から、寝室のベッドに下ろされる。
離れがたくて、深夜の首にすがった。
深夜はゆっくりと真昼の背中を撫で、髪や耳にキスをくれる。
「ん…」
「真昼」
優しい声で名前を呼ばれて、体を軽く離す。
唇に再度口付けを貰い、今度は完全に深夜から離れた。
「すまないな。…庭に行ってもかまわない。私はまだ仕事があるから」
「はい…、」
「大丈夫、すぐに済ませる」
頬を撫でて貰い、頷く。
深夜が再度口づけて、部屋を出て行った。
執務室に入ると、ロウが控えていた。
厳しい顔をしたロウに、事態が変わっていないことを感じ取る。
「狭間の森で一瞬だけ気配を感じ、捜索しましたが…。ですが、妙な術を使ったのか、一瞬でその気配も消えました」
ロウの言葉に、深夜は考え込むように俯いた。
しんとした部屋の中で、一瞬嫌な気配を感じる。
傍に控えていたフミネに視線を移した。
「フミネ! 真昼についていろ」
「遅い」
大きな重い扉が開かれた。
聞き覚えのない声が耳に入り、深夜は眉間にしわを寄せる。
白いフードがなびいて、その腕の中に真昼がいることに気付いた。
「…二度も奪われるなんて、滑稽な男だ」
左手を掲げ、黒い光を浮かべた。
その光から降りてきた刀をすぐに構え、ロウも同じように臨戦態勢に入った。
ロウの唸り声に意識を失っていた真昼が目を開く。
「あっ…!」
「久方ぶりですね。泉の神子」
「いや…! 深夜さ…っ」
フードから伸びた手が真昼の口元を押さえる。
耳元に口を寄せ、囁く。
「静かに」
体が恐怖を覚えているのか、真昼はすぐに口を閉じ雫を携えた。
真昼が大人しくなってから目深にかぶったフードを外す。
長い黒髪が舞って、深夜は納得したように刀を下ろした。
「…お前が、神官か。…黒髪の人間か。迫害を受けたのだろうな」
深夜の低く重たい声に、ルカが一瞬怯む。
すぐにきつい眼差しに変わり、唸り声をあげた。
そんな中、真昼が微かに体をよじる。
真昼の微かな抵抗に舌打ちを打ち、ナイフを携えた。
「ひあっ…!!」
ひんやりと当たるナイフに悲鳴をあげて、真昼はぎゅっと目を瞑った。
「…武器を手放した方が賢明だろう?」
ルカの言葉に、深夜の持った刀は霧になって変わった。
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