深い夜
ぼんやりと窓を眺める真昼を、白い布で包む。
その後ろから小さな体を抱きしめて、シンヤは真昼の頬に口付けた。
素肌に当たる布はさらさらとして気持ちよい。
窓から入る風は心地よいが、少しだけ冷たかった。
「…どうした?」
「不思議…いつも、夢で来ていたから…」
手に触れるふわふわの布を握る。
布の端から手を出して、シンヤの膝に触れた。
ふわりと浮かびあがったカーテンの隙間から、黒薔薇の花弁が入ってくる。
そっとその花弁を手に取り、口付けた。
「全部、夢の中と同じ…」
シンヤの頬にそっと手を当てる。
親指で頬を撫でた。
頬には黒薔薇の花が咲いている。
真昼はその花を見て微笑む。
「シンヤってどういう意味ですか…?」
「深い、夜。という意味だそうだ。母が変わった文字を書いたが、もう忘れてしまった」
「…この字、かな…」
そっとシンヤの手を取り、手のひらに指先を滑らせる。
深い夜。きっと、この文字だろう。
擽ったさに深夜は微かに笑い、真昼を抱きしめる力を増した。
「あとで…、もう一度書いてくれるか」
深夜の言葉に、こくりと頷いて、真昼は体の力を抜く。
真昼よりもずっと大きな体は真昼を抱きしめたまま、ベッドへ倒れた。
ふたりは向き合って、軽く唇を触れ合わせる。
「この、黒薔薇は…?」
「お前と私が、初めて交わった時から、浮かんだ」
「…綺麗」
「まるで、お前と私を、繋ぐ印のようだろう」
真昼はこくりと頷いた。
それからその黒薔薇に指を這わせる。
「真昼? …震えている」
「少し、寒くて…」
隙間をなくすように、そっと抱きしめられる。
頭の下に腕を入れて、その手で髪を梳いた。
こちらに来た時よりも伸びた髪がベッドに落ちる。
「…疲れただろう? もう少し、眠ろう」
深夜の囁き声に、真昼はそっと目を瞑った。
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