淡いグレーの記憶
「具合はどうだ?」

男がゆっくりとベッドに腰を下ろした。
緊張している様子を見せる真昼の手を握る。
温かい男の手に、真昼はほっと息をついた。


「ずっと眠りについていた。…夜が30回を越すくらいに。…身体はだるくはないか」

男の言葉に、真昼は首を縦に振った。
そんな真昼に男は辛そうに微笑み、優しく真昼の頬を撫でる。


「もう少し休んだほうがいい」

傍にいてほしい。
眠ったら、どこかに行ってしまうのではないか、そんな気がして、真昼は男の手を強く握った。


「無理をするな。ゆっくりと休みなさい」

空いている片手で前髪を掻きあげ、晒された額に口付けをしてくれる。
ゆっくりと身体をベッドに戻されて、真昼は不安そうに瞳をゆがめた。


「どこに、行くのですか…?」

小さく震えた声に、男は困ったように笑った。
それから真昼の髪を優しく撫でる。
何度も何度も、男はそうして真昼が眠たくなるのを待つように撫でた。


「まだ仕事がある。…大丈夫、終わったら一緒にゆっくりしよう」

「…どこ、ここに、いて」

「お前が寝付くまでここにいるよ。手を握ってあげよう。ゆっくり眠りなさい」

そっと指をからめて、真昼の頬に口付ける。
男の口付けに安心したのか、真昼はゆっくりと眠りについて行った。


深い眠りについた真昼に、男は指先を額に触れさせた。
フミネの記憶を垣間見た時のように、指先から淡いグレーの光が灯る。
淡い光は男の腕を伝い、男を包んだ。

脳内に浮かぶ、真昼の見た景色。
白い外套を羽織った男に、真昼の恐怖を感じた。
真昼の悲しいという感情に流される様に、男は唇を噛みしめた。
鋭い犬歯が唇を破る。


「…真昼…、愛おしい、我が伴侶」

小さな声で真昼に愛を囁いた。
額にそっと口付けて、男は部屋を出て行った。
執務室に戻ると、フミネとロウが跪いている。
外套をソファーにかけ、部屋のカーテンを開いた
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