誓い
目をそっと開く。
少し眩しいような気がして、真昼は目を細めた。
見覚えのある天井に、真昼はほっと息をつく。
もう怖い思いをしなくていい、そんな気がした。
それでも、失ったものの重さは真昼の胸にずしりとのしかかる。


「フミネ、さん…?」

不意に誰かの気配を感じた真昼は呼びかけた。
頭や目元に包帯を巻いているフミネに、真昼は息を詰める。


「良かった…! よかった、目を覚まして…。真昼様…」

フミネの片方の瞳がうるんでいるのがわかる。
真昼の頬に口づけてくれたフミネに、真昼は小さく笑みを零した。
ゆっくりと体を支えてもらいながら起き上がる。


「大丈夫、ですか…?」

「ええ。私も、魔族のはしくれですから…」

優しい返事を聞いて、真昼は薄くなった下腹部を撫でた。
ふくらみのない下腹部を撫でて、きゅっとその手をもう片方の手で握り締める。


「…真昼様…、お腹のお子は…」

フミネの沈んだ声に、ぼろぼろと涙が零れる。
耐える暇もなく、零れてくる涙に、真昼は俯いた。


「ごめんなさい…っ、ごめんなさい、約束、したのに…!」

小さく震える真昼を、フミネはそっと抱きしめた。
離れる前よりも小さくなった真昼を抱きしめると、フミネの手も小さく震える。
そっと息をついて、真昼を落ち着かせようと、背中を撫でた。


「王が参られます。真昼様が泣いておられると、私がお叱りを受けてしまいますよ」

冗談混じりの言葉に、嗚咽を漏らしながら、涙を拭う。
簡単に止まらない涙だけど、フミネを安心させようと、笑みを作った。


「今は、身体をゆっくり治しましょうね」

こくりと頷いた真昼の頭をそっと撫でる。
魔国へ連れ帰って、綺麗に体を清めた。
櫛を入れて、毎日手入れしていた髪は、さらさらとフミネの指の間をすり抜ける。
真昼は魔国へ戻って来てから、一ヶ月近く深い眠りについていた。


「真昼様、私はあなたのために…」

そっと、真昼の頬を撫でて、フミネは微笑んだ。
ゆっくりと立ち上がり、一礼する。
フミネが少し歩いたところで足を止めた。
ノックが聞こえて、すぐに扉が開かれる。
すっと入ってきた男に、フミネは一礼して、部屋を出て行った。
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