花弁
目を覚ましたら、まだ夢の中にいた。
黒薔薇の庭に立っている。
白い塔から少し離れた場所だ。

誰もいない庭に、真昼はほっと息をついた。
小さな声で歌を歌う。
意味はなかった。
ただ、唇からこぼれ始めた。
少し歩いてから、白い塔へ向かう。

白い塔の中へは簡単にはいることができた。
中に入り、ふかふかのベッドに横たわる。
夢の中の、このベッドは真昼のお気に入りのひとつだ。

ふいに、冷たい風が吹いた。
カーテンがふんわりと浮かび、黒薔薇が舞いこんでくる。
その花びらを一枚、手に取った。


「…ねえ、」

心地よい高さの声が耳に入る。
窓に視線を移せば、そこには小さな男の子が腰をかけていた。
少し青みがかった黒髪に、白く綺麗な角が生えている。
真昼の大好きな、男の角と同じものだ。
そっと体を起こし、小さな男の子を眺めた。


「身体は、大丈夫?」

大丈夫じゃない、そう答えようと、首を横に振る。
男の子は小さな手を真昼に伸ばして、ゆっくりと引っ込めた。


「…もう、駄目かもしれないの。…あなたは、どこからきたの?」

男の子が出窓から降りて、真昼の前に立った。
そっと顔をのぞきこめば、くりくりとした孔雀色の瞳が真昼を見つめる。
自分と、男によく似た顔だ。
男の切れ長の目の形。
男の子の目の形。
真昼とお揃いの孔雀色の瞳。


「あの、人と…、僕の…」

「僕を失って、悲しかった?」

ポロポロと涙が零れた。
雫は黒薔薇の花弁に変わっていく。
男の子の頬にそっと指先を震わせた。


「悲しい、悲しいの…。なにもなくなったみたいで、どこにも、いなくって…」

真昼の唇から零れる言葉に、男の子は頬をなでる真昼の手を優しく握った。
男の子の孔雀色の瞳から、雫が零れる。
真昼の雫と同じで、黒薔薇の花弁が落ちて行った。

「大丈夫だよ。あなたのもとへ、もう一度行くから」

そっと小さな身体を抱きしめた。
温かい頬をこすり合わせて、男の子の笑い声を聞く。
そっと体を離して、頬に口付けた。

淡い光が男の子を包み、消えていく。
徐々に明るくなっていく視界に、真昼は目を瞑った。
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