頬に黒薔薇を
重く黒いカーテンを開く。
黒薔薇の庭に立つ真っ白な塔を眺め、男は傍にいない小さな存在を思い浮かべた。
フミネが見た景色を、魔力を使って垣間見た。

真昼の涙を浮かべた笑みが、フミネの見た最後の真昼。

それからすぐに白い外套を羽織った男に襲われた。
フミネの小さな耳が鋭いナイフで切り取られ、その耳は白い男が持って行った。
もう戻らない片方の耳に、フミネは叫び声をあげて、視界が途切れる。


バチっと音をたて、すぐそばの光がはじけた。
昼の来ないこの国では、魔力の光だけが頼りになる。
その光が消え、部屋は薄暗くなった。
扉が開き、男はその光があったところに手をかざす。
すぐに光が元通りに戻り、部屋を照らした。


「支度が整いました」

「ああ。…真昼が、弱っている」

ロウがぎり、と歯を食いしばるのがわかる。
男は音を立て、黒い外套を羽織った。


「…王、その黒薔薇は…?」

「これか、…我が伴侶と交わった夜に、現れた」

頬に浮かび上がる黒薔薇に、ロウは見惚れた。
艶やかで、男の品のよさが際立つ。


「気が高ぶったときに浮かぶのだろうな」

ぼそり、と呟かれた言葉に、ロウは意識を戦闘へと向けた。
我が王のままに。
心の中で呟き、扉を男のために開いた。



いつの間にか、黒薔薇の庭に来ていた。
夢の中はいつも穏やかだ。
誰もいない白い部屋に、真昼は閉じ込められていた。
ベッドから降りて、カーテンを開く。
カーテンを開いた先には、黒薔薇の庭はなかった。
ただ、白い壁が、真昼の前に広がる。
黒薔薇の庭に出る扉も、ノブしか見つからなかった。

不意に、あたりが騒がしくなった。
ベッドに腰をおろし、小さくなる。
ドアノブしか見つからなかった扉が、大きな音を立てて開いた。
急に意識が遠のくのを感じて、真昼はその闇に身を委ねる。

完全に意識を手放す前に、男の香りがして、頬を涙が伝うのを感じた。

響く唄 end
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