黒い光
なんども言葉を漏らす真昼に男が舌打ちをした。
涙をこぼす姿を見て、武官に腕を縛るように告げる。
細い腕が荒縄にぎゅっと縛られて、真昼は小さく呻き声をあげる。
荒縄が手首に食い込んで痛い。


「なぜこんなこと? 神子になど関係ない」

「でも、人を簡単に、…っ」

「うるさい」

「…っ」

大きな声で怒鳴られ、真昼はびくりと身体を揺らす。
怒りの表情を浮かべたルカに、恐怖が心に渦を巻いた。


「ッチ」

無防備に曝された足をさらに露わにするように、男が服を捲った。
白く、頼りない足は震えている。
真昼の唇は恐怖から来る悲鳴を零していた。
唇は青ざめ、真昼の体は冷たくなる。
ルカはそんな真昼の声が煩わしくなったのか、うめき声を漏らした。
それから真昼の腕を縛った男に命令する。


「口をふさげ…。やかましい」

ルカの低い声の命令に、男は忠実に従う。
真昼の口元を布で覆い、くぐもった悲鳴しかもれなくなった。
布を腹部まで捲くったルカが息を飲む。
細い体に不自然なふくらみを持った真昼の腹部が露わになった。


「…魔王の子をはらんでいるのか…っ」

低く唸るような声に、真昼は大きな悲鳴を上げた。
足をバタバタと動かす。
ソファーの角に当たったりするが、構わずにじたばたともがく。

小さな命に危険が迫っているのが感じ取れて、真昼の抵抗は大きくなった。
必死に抵抗し、真昼は布越しに男の指を噛む。
この子の命だけは、諦めきれない。



ルカが真昼の腹部に手を当てた。
どす黒い光がルカの手を覆い、腹部にじくじくとした痛みが生まれる。
真昼の腹部に灯っていたぬくもりが消えていく。


「…いや…、嫌、嫌、嫌、いやああああっ!」

ズキン、と体を貫くような痛みが走った。
小さく掠れた悲鳴はやむことはない。
嫌、嫌、と言葉になった悲鳴は、不穏な部屋に響いた。

ルカの手に体をまさぐられる。
男にしか触れられたことない体が、無理やり開かれていく。
快感なんて存在しない。
ただ、頬に流れた涙と、ズキズキと痛む腹部の感覚しかなかった。


「これで、私に大きな力が…」

ルカの呟きに、真昼は涙をこぼした。
もう、汚い。汚れてしまった。
どんよりとした重たいものが、心を覆い尽くした。


冷たい塔。
投げ込まれた真昼は、平らになったお腹に手を当てた。
ぬくもりなんてない。
もうあの温かさを感じることはできない。
その現実が真昼の心を蝕んだ。
冷たいそこに、真昼は意識を手放す。
夢も見ることもできないくらい、深い眠りについた。


「思ったよりも、力が少ない…」

地下の洞窟。
水色の泉が、きらきらと輝いている。
自分の手のひらを見つめ、ルカはひとり呟いた。

真昼の悲鳴を思い出す。
絶望しきった、悲しい悲鳴。
耳に残る声をかき消すように、ルカは部下を呼んだ。


「これで…平和になるんですよね?」

「ああ…、そうだ。…あの部屋を、片付けろ」

「…はい、直ちに」

洞窟から出ていく部下に、ルカは目を閉じる。
ひとりの洞窟は、静まり返っていた。


「ああ、人間だけの、世界にな」
prev | next

back
「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -