古い夢
何もかも白い部屋。
壁も、ベッドも、コンクリートの長椅子も。
どれもこれもが白い、真っ白な部屋。
―…真っ暗な夜が僕を包み込んで
愛に飢えた僕を
寂しがり屋の僕を
優しく、愛おしく包み込んで
真っ白の部屋で、声が響いた。
寂しいと泣く声。
ずっと、この真っ白の部屋の中、ひとりで泣いていた気がした。
寂しい?
どうして寂しいの?
あの人がいないから
あの人って誰?
「真昼」
低い声が聞こえる。
低く、優しい、温かい声だ。
「…誰?」
白いふわふわと舞う布を見る。
窓なんてなかった部屋に、いつの間にかカーテンのようなものが浮かび上がった。
ふわふわと舞うカーテンの奥には窓があるような気がした。
「お前を最も愛する者」
「僕を愛してくれるの?」
「母よりも、父よりも。…友よりも」
ふわりと舞いあがった布。
柔らかな布の奥には、四角い穴があいている。
穴に腰をかけた真っ黒の布。
花弁に変わっていくその布を目で追った。
ひらひらと花弁に変わっていく。
「…魔王様みたい」
真昼の目の前を黒く長い髪が舞った。
花弁が舞った時みたいに、幻想的で、まるで、暗闇に包まれるようだ。
「真昼、早く私の腕の中へ…おいで」
胸に込み上げてきた喜び。
その喜びはきゅうきゅうと心臓を締め付けてきて、男に抱きついた。
ぶわりと舞いあがった黒薔薇の花弁が、男の肩越しに見えた。
古い夢 end
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