必要のない存在
真昼が塔に閉じ込められて、2週間近く経つ。
日付は与えられたパンをちぎって、並べて数えた。

与えられた水とパンは食べていたが、1週間が過ぎたころ、食べるのをやめた。
もともと細かった腕が、さらに細くなったような気がして、真昼は毛布に包まる。

あの日を境に、男が真昼の夢に出てきてくれることはなくなった。
ただ、あの白い部屋には真昼しかおらず、静かにあの部屋で過ごすばかり。
期待ばかりを持ち続けて、疲れてしまった。
いつしか眠りも深くなり、夢すら見れず、疲れが溜りずっと寝転がっているだけになる。
疲れてしまった。
寂しくて、辛くて、期待するのも嫌になった。
ただ、日が昇って、夕日が沈んで、夜が来るだけ。


「おい、起きろ」

久々に目を覚まして、壁に寄りかかっていると、牢屋の番人の男が入ってきた。
格子をあけて、真昼を見る。
それから立ち上がれ、という仕草をされて、真昼は弱った足で立ち上がろうとした。
足はかくんと膝から折れて、ろくに歩けそうにない。
番人達は嫌そうな顔をしながら真昼の肩を持った。


「そういえば、何も食べてなかったからな」

「弱ってんだろ」

「王もなんで急にこいつを呼び出したのかね」

番人達に引き摺られる様にして、塔を出た。

連れられてきた場所は最初に目を覚ました場所ではなかった。
どこかはわからないけれど、豪華な造りの部屋に真昼は目を細める。
番人達が真昼を座らせ後ろに控えた頃、扉が開いた。
入ってきた王と神官と鎧を着た男がふたり。
王の腕には、真昼とは正反対に健康そうで、幸せそうな明理が立っていた。


「…汚い…」

明理が呟くのが聞こえる。
聞きたくない。
耳をふさぐ真昼の仕草に、王が嘲笑した。
神官の残念そうな表情は哀れみを増している。
真昼はそんなみたくもない人たちの姿にうなだれて目を瞑った。


「神子ではない、しかも魔の印を持つ者がこの城にいるのは不愉快だ。…森へ捨ててこい」

「はっ」

王達の後ろに控えていた衛兵達が真昼を乱暴に立ち上がらせた。
そのまま、また引き摺るようにして、城の廊下を歩く。
もう歩いているとは言えない。

捨てられる。
また、あの怖い森に。

そう思った途端、絶望が膨れ上がり、真昼は静かに泣いた。
あらがうことなんてできない。
ドン、と背中を押され、荷物を運ぶような場所の荷台に投げられた。


「…どうか、信じてます…っ」

掠れた、声にならないような声で、真昼は男を思う。
馬車は軽快に走りだした。
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