甘い夢
浅く眠りについたのか、真昼は白い部屋で目を覚ました。
白いふかふかのベッド、柔らかなカーテン。
ふわりと舞いあがった先を見れば、黒薔薇が舞っていた。
これが夢であることは、昔から知っていた。
最近見ることのできなかったこの夢に、真昼は愛おしい気持ちが胸に湧き上がってくるのを感じる。
「…っ」
涙が頬を伝う。
“真昼は泣き虫だな”
愛おしい腕の持ち主に、そう言われたことを思い出した。
頬を伝う涙を手の甲でそっと撫でた。
夢の中なのに、やけに現実的で、この感覚がとても心地よかった。
「ふ…ぅ…」
一息ついて、真昼はベッドから降りた。
窓から外を見ると、男が空を見上げている。
早く、早く抱きしめてほしい。
そんな思いがこみ上げてきて、真昼は扉を探した。
「どこにあるの…?」
手で触れながら、壁を伝う。
不意に指先に冷たい感触あたり、真昼はそれを握った。
「あっ」
くい、と引くと、小さな音を立てて扉が開いた。
「…っ、」
ぶわりと黒薔薇の花弁が舞いあがる。
ひらひらと落ちていく花弁は真昼の手のひらの上に落ちた。
窓から見えた方向に歩いていく。
裸足の足に、柔らかな地面は温かかった。
この世界は何かも優しい。
暖かな風が真昼の頬を撫でる。
柔らかな土は踏みしめるたびに心地よさで心が満たされた。
男が黒薔薇の真ん中に立っている。
そこまで駆け寄り、男の外套を握り締めた。
男と会えたことに安心したのか、涙がこぼれ始める。
「…ふ、ぅ…ぅっ」
小さく嗚咽を漏らす真昼の姿に気付いたのか、男は振り返り微笑んだ。
「真昼」
大きな腕が真昼をきつく抱きしめた。
痛いくらいの抱擁に、真昼も男に腕をまわす。
「真昼、私との約束を覚えているか」
覚えていない、とは言わせない声色。
もちろん覚えている真昼は、こくこくと何度も頷いた。
そんな真昼に小さく口角を上げた男は、そっと真昼の額に口付けた。
「愛しているよ、私の愛おしい子」
優しい囁きに、真昼は目を瞑る。
夢の中なのに、眠気が襲ってきて、真昼はゆっくりと意識を手放していく。
「今は眠りなさい」
そんな声が聞こえて、暗闇に落ちて行った。
まだ、抱きしめて欲しかった。
伝えたい思いも、伝えられず、真昼は少しだけ悲しかった。
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