嫌われる色
全身の痛みで目が覚めた。
痛む身体を刺激しないようにゆっくりと身体を起こす。
そこは柔らかな毛足の長いカーペットの上で、真昼はあたりを見渡した。
明理がぼんやりとしているのが見えて、小さく声をかけようとする。
しかし、声をかければ、また辛いことを言われるような気がして、口をつぐんだ。
真昼は声をかけなかったが、明理は目を覚ましたことに気づいたのか、振り返って真昼を睨みつける。
「あ、あの…どうしたの…?」
「別に。っていうか、お前、絶対にさっきのよくわかんない光のこと言うなよ?」
「…うん、言わない…」
こくりと頷いて、明理から視線をそらす。
明理もすぐに真昼から視線をそらして、ソファーの上に座った。
真昼は起き上がることができずに、そのままカーペットに座る。
あたりを見渡せば、ここは豪華な客室のような部屋だった。
まるで、偉い人が住んでいるような、昔話とか、世界旅行の番組とかで見る昔のお城のような部屋。
こんなに豪華な部屋だけれど、人の気配は感じなかった。
ここは、安心していい場所なのだろうか。
真昼は少しも安心できないような気がした。
ふと明理が真昼の方を向いていることに気づいた。
何だろうと首を傾げれば、明理は舌打ちをする。
それから真昼を指差してから、早口で言った。
「お前絶対にあいつの前で話すなよ!! お前みたいなやつの話なんて誰も聞きたくないからなっ」
「…っ、な、何で…」
「うるさいっ! 黙ってろ」
「う、ん…」
明理は窓の外を見たり、立ち上がってそばにあった花瓶などを触ってみたりする。
いいのかな、と思っているうちに、突然、豪華で大きな扉が開いた。
そちらに視線を向けると、明理が嬉しそうに声を上げた。
明理を見れば、嬉しそうに笑みを浮かべる。
ドアの向こうから、真っ白な布に金糸の刺繍の入った外套を纏った人が入って来た。
「…あなたは?」
「明理」
「そちらの方は?」
「あ…、真昼…です」
名前を求められ、ふたりはすぐに答えた。
冷たいその声に気づいていないのか、明理は嬉しそうにずっと笑っている。
それが少し、怖くて、真昼は目を背けた。
「あなたは…、」
フードを被った人は真昼を見ると冷たい声を、震わせた。
隠れていない顔は、どこか「可哀そうに」とでもいいたそうな表情を浮かべている。
その表情に真昼はやはり安心できない場所であると感じた。
失礼のないように行動しないと。
そう思い、萎縮してしまう。
明理はそんなことも感じないのか、ぶしつけな視線をフードの男へ向けた。
真昼は頭を下げ、男から視線をそらした。
背筋がぞわぞわして、何か嫌な気がする。
それはいつまでも真昼を襲い続けた。
あのひとは怖い。
「そ、れ、よ、りっ! なんで顔隠してるの? 見せてっ」
突然立ち上がった明理は、男のそばに近寄る。
それからフードに手をかけて、思い切り外した。
出てきたのは、長い黒髪の青年の驚いたような顔。
綺麗な黒い瞳を明理は興味深そうに見つめた。
真昼は、そんな失礼な明理の姿に頭を下げ、見ないようにする、
一瞬見えた青年の表情は、怒りを浮かべていたように見えた。
「綺麗じゃんっ。なんで隠してるんだよ!」
「この国では黒色は嫌われているのですよ。だから外套が手放せないのです」
苦笑いする男に、真昼は自分の髪に触れた。
真っ黒な髪の真昼は、この国の人に嫌われるのか、と考える。
ますます怪しくなる自分の身の安全に、身体が小さく震えていた。
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