この世界
「リリー、もうひとつチョコレート食べたらどうだ」

隣に座ったダリオが優しい声で囁く。
その声に促されるように、手を伸ばしてもう一粒口元に運んだ。
お茶を飲めば、思っていたよりも喉が渇いていることとお腹が空いていることがわかる。


「お腹空いているみたいだね、今、他のを持ってこよう。ちょうどりんごのパイがあるし」

「りんごのパイ…いいの?」

「ああ、いいよ、リリー」

ふわっと微笑んだルキーノにリリーは目を細めた。
ルキーノからふわっと、とても優しいクッキーの香りがする。
ダリオのチョコレートもルキーノのクッキーも、リリーを優しく包み込み甘やかしてくれるような香りだった。


「リリーは食べるのが好きみたいだな。そんなに細いのに」

「…うん、なんだかとてもお腹が空くの」

「たくさん食べろ。このチョコレイトも、今持ってくるりんごのパイもルキーノが作った」

「そうなんだ。とても美味しい…。ダリオは食べないの…?」

「甘いものは苦手だ。だから私の分も食べてもいい」

ダリオもルキーノも優しく笑ってくれる。
少しだけ怖さはどこかにいったみたいだ。
お茶の美味しさと、チョコレートの甘さでリリーも頬を緩めた。


「…ああ」

小さくダリオから声が聞こえて、そちらをむく。
ダリオはなんでもない、とつぶやき、膝で丸まっていたロジーを撫でた。


「お待たせ。温めてきたから、美味しいと思う。どうぞ、リリー」

リリーの目の前に置かれたりんごのパイはとても美味しそうだ。
もらったフォークを突き刺せば、りんごのパイの甘い香りが部屋に漂った。
口に含めば甘く煮詰められたりんごが口の中に香る。


「よし、俺も食べよ」

座ったルキーノがお茶を飲み、隣に止まったヨウランの口元にりんごを運んだ。
ヨウランは嬉しそうにりんごを啄む。
その様子を見て、リリーは腕の中のオトメを見た。
オトメはリリーにお腹を見せて横になっている。
優しく撫でてあげればピクピクと耳が動いた。


「リリー、この国の話をしても大丈夫か」

「…混乱しない程度に…」

「ああ。少しずつ教えていく」

りんごのパイを食べながら、ダリオを見つめる。
ダリオは咳払いをしてから、立ち上がった。
壁にかかった黒板の方に歩いて行き何か書き始める。


「まずはこの世界について…」

そう話し出したダリオの話は、リリーの知る世界とは違いが大きかった。

この世界は、大陸が7つあり、7つの国が各大陸を治めている。
その内大きな大陸はふたつ。
ダリオの家、ルベルム家が統治するリリウム国と、クレマチス家が統治するデッセン国。
このふたつの国が大きな権力を持っていて、よく戦争を起こしていたが現在は停戦中である。
国については、今の段階ではその程度覚えていれば良い。
ダリオはそういってから、お茶を口に含んだ。


「…残りの国は…?」

「他の国は戦争には参加したりしなかったり。その時の当主の状況による。ちなみにコマクサはケシ国という国の出身の者だ。各国の特徴はゆっくり覚えていけばいい」

「俺とルキーノはリリウム国の出の者だ。では次に進もうか。次はここについて」

こことは、学園のこと。
リリーはここがどこであるのかはわからないだろうが、この学園は7つの大陸の間に囲まれた「真ん中の島」にある。
各国の選ばれた生徒達が、この学園に集められる。
その選ばれた生徒とは、一定の学力、体力、精神力を持った庶民、職人、王族のことをいう。
庶民とか、職人とかはわかるだろうか。
そうか、わからないか。
庶民とは、主に技術職ではない職業に就いた一般市民のこと、各国の大多数を占めている。
職人とは主に、技術職についている市民のことで、技術職とは食器、機械、料理、芸術家、音楽家などが挙げられる。
今の中でわからないことあるか。


「ううん…、大丈夫。思ったよりも、元の世界と意味とか雰囲気とかは同じかも」

「そうか、それなら王族もわかるか?」

「王様の…家族とか親戚?」

「ああ、そうだ。なら話は早いな。学園について話そうか」

「うん」

小さく頷くと、ダリオがもう一度お茶をのんだ。

この学園は各庶民、技術職、王族の優れたものだけが集められる全寮制の学園だ。
学園の名前はグロンオム学園。
各国の各階級のリーダー的存在を育てる学園だ。
まだお前がどこの階級に配属されるかわからないが、この学園は選ばれた者しか入ることができない場所なのだ。

「だからお前がいた時は驚いたよ。」

「…ダリオは、この学園の生徒全員覚えているの」

「ああ。俺は記憶力が人一倍あるからな。一度見れば二度と忘れない。だから生徒、職員すべて覚えている」

「そうなんだ。だから、僕のこと、見つけられたんだね」

そう言ってリリーは儚く笑った。
その笑みは寂しそうで、悲しそうで。
ダリオとルキーノは息を飲んだ。
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