リリー
ゆらゆらと揺れる感覚に、浸る。
意識は深いところにあって、周りの音も世界もわからなかった。
ただ音のない世界には、白いふわふわがひとつ浮かんでいる。
白いふわふわはゆっくりと近づいてきた。
それから身体の周りをぐるんと回って頬に触れる。
「聞こえる?」
「…うん。ここはどこ」
「どこだろうね」
「教えてくれないの」
「教えてあげないよ」
白いふわふわがクスクスと笑う。
それから頬を擽ってもう一度身体の周りをぐるぐると回った。
真っ暗な世界の中、白いふわふわしか見えない。
「意地悪だね。あなたは誰」
「神様だよ」
「神様? 神様って、意地悪なの」
「どうだろうね」
神様がぐるぐると真っ黒な空を飛ぶたびに、キラキラと光が飛ぶ。
その光はすぐに消えてしまって、自分の姿が見えなくなった。
指先も足先も身体も何も見えない。
見えるのは黒い世界と白いふわふわの神様だけ。
「…あれ、僕って、誰なんだろう」
「誰なんだろうね。そんな君に御朗報」
白いふわふわの神様は飛び回るのをやめ、僕の目の前で止まった。
僕を形作るもの、今は見えないそれがほろほろとほころんでいく。
糸がほどけていくようにするすると。
身体が消えていく。
「君に僕が名前をあげる」
「名前? …僕の本当の名前は? 姿は? 中身は? 僕は一体誰なの」
「ふふ、君は誰なんだろうね。だから名前をあげる」
胸までほどけてきて、白いふわふわの神様がゆらゆらと横に揺れた。
解ける体はどこにいくんだろう。
もう首元までほどけてきた。
「君の名前は、リリー」
「リリー」
「…の誇り、リリーだよ」
白いふわふわが笑っているような気がした。
ゆらゆらと世界が揺れて、とうとう頭までほどけてしまった。
意識だけが取り残される。
「リリー、忘れないで」
何を。
「リリーは、白くて綺麗で、潔白で、誇り高い華」
華?
「リリー、君の運命は、君が決めるんだよ」
言葉を紡げなくても神様の言葉は聞こえてくる。
消えてしまった身体がまた編まれるように、痛みを伴って元に戻り始めていくような気がした。
世界はゆらゆらと揺れている。
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