さて
落ちる夢を見た。
夢なのかもわからない。
気づいたらここにいて、気づいたら自分が誰なのかわからなかった。
「さて」
覚えている。
覚えているのは。
薄紅色の百合の花。
甘く濃厚な、乙女百合の香り。
誰かが誰かを呼ぶ声。
「おい、そこに誰かいるな」
低い声が聞こえてきて、そちらをむく。
ここはどこなのだろうか。
見たことのない花がたくさん咲いている。
「ルキーノ。…登録名簿と編入生名簿を確認しろ。この顔、見覚えがない」
「ダリオが見覚えがないのか」
「おかしい。ロジーも覚えがないと言っている」
「今、ヨウランに確認させに行ったから、ちょっと待って」
あ、大きな金色の鷹が飛んでいった。
夢なのかな。
ふわふわと視線が泳ぐ。
「お前、名前は」
「…あ、うわぁ、すごい、ドラゴンって初めてみた」
「おい」
「いい匂いがする」
「お前」
聞いてるのか。
そう話しかけられて、首根っこを掴まれた。
ぐえっと首が締まり身体が浮く。
苦しくなった首に手を当てると、すぐに身体が地面に落とされた。
「ゲホっ、くるし…」
「お前、名前は? どこからきた。それに、その制服…か? 我が国のものか? 私の記憶にないな」
「…名前?」
名前、名前。
頭の中が真っ白で、何も思い浮かばない。
覚えているのは落ちたこと。
それから、百合の花。あれはきっと、乙女百合だ。
「…怪しい奴だな」
「…怪しいの?」
「怪しい。お前、名前も言えないのだろう。この閉鎖された学園内に私の知らない者がいるはずがない。警監委員とし身柄を拘束する」
「わっ、わわっ」
腕を掴まれてぐるんと身体が回り、地面と頬がくっつく。
腕を何かで縛られ、肩に担がれた。
「ルキーノ、ヨウランに委員会室へ行くように伝えろ」
「了解」
銀色の小さなドラゴンに大きな金色の鷹。
綺麗な銀髪に薄紅色の美しい瞳。
なんだか、ここは自分が知っている世界とは全く違うところような気がした。
ゆらゆらと揺れる肩の上、新しい世界とこんにちは。
さて「僕は一体誰でしょう」
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Secret Story |
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