昔話それから
「…これは、リリウム国の話か」
「いいや、これはこの世界の昔話だ。不思議なことに、どこの国に行っても、この昔話だけは変わらない」
「…そうか、不思議な話だな」
「ああ、変わっているだろう。まあ、伝説の神子はそのあとにも何回か現れているし、その都度、落ちる国は変わっているから、各地にもそれぞれの話は残っている。しかし、初代、と呼ばれる伝説の神子の話はこの話になるな」
「一番最近に来た神子の話はあるのか」
「一番最近、となると、ケシ国にきた神子が一番新しいだろう。と言っても、500年以上も前の話になるが」
なるほど、と頷きながら、お茶を飲んだ。
やけに喉が渇く。
ミハエルもずっと話しているからか、お茶を数回飲んでいる。
ジャンネットがほらよ、と渡してきた本を受け取って眺めた。
綺麗な百合が描かれたその表紙を撫でる。
「神子が現れるのには理由があるな。例えば、初代の神子のように千年続く長い戦争の終結や、飢饉や流行病の際に現れたな。一番最近の神子はこの世界全体に流行病が蔓延したのが理由だったな」
「その話をするということは、伝説の神子が現れたということか? なぜ、現在学園に隔離された君たちにわかるんだ」
「…それが、学園に神子が落ちたかもしれないからだ」
「…そんなことがあるのか」
「前例はないな」
そう言ってミハエルの用意したお菓子を食べ始めたジャンネットに腕を上げて首を振ってみせた。
神子が落ちてくる理由があり、落ちる先にも理由があって落とされる。
それならば、なぜ、この学園に落ちたのか。
そして、この世界になにか危機が迫っているのか。
それが分からずに、シランは眉を寄せた。
「この昔話を聞く限り、真ん中の島、というのはここのことか?」
「ああ、理解が早いな。このグロンオム学園は、真ん中の島にある。かつて神様が存在していた島だ」
「…なら、神様はどこに行ってしまったんだ」
「それは、私たちには知ることはできないよ。神様の居場所を知っているのは、神様の選んだ愛し子、神子様だけだからね」
そう言って、笑ったミハエルはとても嬉しそうだった。
ミハエルの手には、クレマチスの書かれたうつくしい白色と紫の表紙の本が持たれている。
「まあ、さしずめ、主人公は俺たちってことだな」
ジャンネットの言葉に、シランは苦笑した。
美しい二冊の本には同じ話が書かれている。
それは、自分がこの世界に来た理由になるのだろうか。
シランはそう思いながら、うつむいた。
彼は、白い神様を知らなかった。
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